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球団史上最強の助っ人のひとり、ラルフ・ブライアントは言う。「近鉄は僕のすべて!」

近鉄の仲間から吸収したファイティングスピリット

近鉄には若くて豪快な選手が揃っていた。彼らと苦楽をともにすることで、ブライアントは変わっていった。

「金村義明さん? デンジャーな人だった(笑)。悪い言葉を教えてくれた、日本語の先生。彼はいつも僕を笑わせてくれました。金村さんがテレビタレントとして活躍していることはよく知っている。いつもジョークを飛ばしている人だったし、個性的で陽気なキャラクターだった。彼のテレビでの活躍は納得できるよ」

スキのない西武とは対照的に、近鉄は破天荒な野球が売りだった。

「西武が近鉄とは違ったチームカラーを持っていることはわかっていた。ブルーとホワイトのユニフォームを見るたびに、やっぱりチャンピオンチームだなと思ったもんだよ。だから、絶対に倒したかった。

西武は非常に統率が取れたチームで、近鉄にはファイトのある選手が揃っていた。特に、村上隆行さんの印象が強い。いつも元気で、明るくて前向きだったよ」

近鉄のユニフォームを着て戦うことで大きく変化したのは、ブライアントの心だった。

「近鉄の選手たちからファイティングスピリットを吸収していった。西武に勝つためにはそれが必要だったから」 

近鉄の本拠地である藤井寺球場で、近鉄ファンの声援を受け、ブライアントは打ちまくった。

「収容人数はアメリカのスタジアムに比べれば少ないけど、観客席が近いから、ファンの声援もよく聞こえて、思いがダイレクトに伝わってきた。選手からすれば集中しやすい、ファンにとっては見やすいスタジアムだった。

大阪の言葉はキツい? それは知らなかったなあ(笑)。日本語がわからなくて、よかったね。自分にとっては勇気づけられるいい声援だった」

近鉄に見つけてもらって人生が変わった

知る人のいない異国の地で野球に打ち込むブライアントは、近鉄の指導者に育てられ、成長していった。

「一番はじめに思い浮かぶのは、やっぱり仰木彬監督だね。ものすごくいい人だったし、尊敬していた。亡くなってしまったことが残念で仕方がない。仰木さんは選手をリラックスさせてくれる人。僕に力を出せる環境をつくって、プレッシャーから解放してくれた。その一方で勝利にこだわる監督だった。厳しい練習もさせられたからね。

彼がよくお酒を飲むということは知っていたよ。試合前の練習では、選手よりもたくさんランニングをしていたから。あの姿も印象的だった。それにゴルフがすごく上手だった(笑)」

もし近鉄でプレイしなかったら、ブライアントはどんな人生を歩んでいただろうか。

「中日にいたときはチャンスがなかった。でも、近鉄が私を見つけてくれて、人生が変わった。チャンスさえあればいい結果を残す自信はあったけど、それを証明することが中日ではできなかった。もし近鉄に移籍しなかったら……いまの自分がどうなっていたかわからない」

中日の二軍でチャンスに飢えていたブライアントは、自分の力で未来を切り開いた。

「近鉄で活躍できたのはなぜだろう。自分に起こったことは運命だと思っている。近鉄にトレードされたこと。そこでいい指導者といい仲間に出会ったこと。そして、いい成績を残せたこと。近鉄ですべてが変わった。きっと、運命だよ。

近鉄というチームは、私にとってすべて。自分の人生の中で大きな意味を持っている。仲間やファンとのすばらしい思い出もたくさんある。本当に私のすべて」

梨田氏、ブライアント氏に続き、最後に登場するのは近鉄最後のエースとして活躍し、今もなお現役選手として奮闘するジャイアンツの岩隈久志投手! 11/30(土)21時、配信予定です。お楽しみに!

『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』の詳細はこちらから!

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新刊紹介

元永知宏

もとなが・ともひろ●1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。『期待はずれのドラフト1位――逆境からのそれぞれのリベンジ』『敗北を力に! 甲子園の敗者たち』『レギュラーになれなかったきみへ』(いずれも岩波書店)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社)、『敗者復活 地獄をみたドラフト1位、第二の人生』(河出書房新社)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)、『野球を裏切らない――負けないエース 斉藤和巳』(インプレス)などの著書がある

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