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鎌倉は、冬もおいしい。鎌倉育ちの作家・甘糟りり子が愛する冬の名店3選

鎌倉の夜の歴史が染み込んだバー

最後にご紹介するのは、由比ヶ浜通りにある「THE BANK」。
その名が示すとおり、昭和2年に鎌倉銀行の由比ヶ浜出張所として建てられたビル内をリノベーションしてできたバーです。

銀行創業時から変わらない天井のレリーフや、貨幣が行き来をしていた大理石のカウンターなど、店内の各所には今も当時の面影が残ったまま。

この古いビルがそのまま残っていることは、地元の人間として誇らしい。
私が子供の頃は小児科医院だった。その後、古着の店になったりして気がつくとバーになっていた。開業はほんの十九年前なのだが、時々、私が生まれる前からTHE BANKはあって、亡くなった父もここでグラスを傾けていたんじゃないかという気がしてしまう。

バーのショップカードもおしゃれ
バーのショップカードもおしゃれ

銀行の出張所が、こうしてバーになったのは、2000年のこと。キリンラガーのラベルなどで知られるアート・ディレクターであり、骨董の目利きとしても知られていた渡邊かをるさんがTHE BANKをオープンさせました。

しかし2015年に渡邊さんが亡くなり、一度は閉店。

地元の常連客や東京から通っていたファンらが「バンクはどうなるんだろう」と心配を募らせるなか、この店の空間内装を手がけたインテリアデザイナーの片山正通さんが後を引き継ぐことになり、2016年10月、待望の再開となりました。

この一報を耳にした時、私は安堵のあまりその場で座り込んでしまった。単なる客なのに。やっぱり鎌倉の夜にはTHE BANKがなくてはね。

現オーナーにバトンが渡った今も、鎌倉を代表するバーとして歴史を紡ぎ続けています。

「東京にもニューヨークにもパリにもこんなバーはないんじゃないかと思う」(本書より)
「東京にもニューヨークにもパリにもこんなバーはないんじゃないかと思う」(本書より)

この冬は“読書で鎌倉散策”いかがでしょうか?

『鎌倉だから、おいしい。』は、甘糟さんが鎌倉の美味と思い出を綴ったエッセイ集です。
鎌倉ならではの風情を感じられる名店が多数登場。
ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ち・鎌倉在住の甘糟さんだから知っている魅力的な世界に出会える1冊です。

なかなか気軽に観光地へお出かけ、というわけにはいかない今の状況だからこそ、読書で鎌倉散策はいかがでしょうか。

書籍の詳細は、こちらから

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新刊紹介

甘糟りり子

あまかす・りりこ●作家。1964年横浜生まれ。3歳から鎌倉在住。都市に生きる男女と彼らを取り巻く文化をリアルに写した小説やコラムに定評がある。近著の『産む、産まない、産めない』(講談社)は5刷に。そのほか『産まなくても、産めなくても』(講談社)など現代の女性が直面する岐路についての本や、鎌倉暮らしや家族のことを綴ったエッセイ『鎌倉の家』(河出書房新社)など好評発売中。

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