2023.11.2
午前2時のコンビニで過去問コピーを取る夫、そのとき専業主婦の妻は……。【おおたとしまさ新刊『中受離婚』一部試し読み】
小四のころ体育会系の夫の興味はバスケに向いていた
中学受験を言い出したのは杏のほうだった。杏は首都圏の郊外出身、穂高は熊本の出身で、どちらにも中学受験経験はないが、ふたりが出会ったW大学には、私立中高一貫校出身者の友達も多く、なんとなく雰囲気は知っているつもりでいた。現在住んでいる中野区では、中学受験はごく一般的なことであり、杏はママ友から情報を得ていた。小学校では低学年から塾に通う子も多く、ムギト自身も「塾に行ってみたい」と言っていた。小三のときだった。
Wアカデミーを選んだのも杏だった。真面目な性格のムギトのことだ。熱血講師に厳しく指導されれば、必死にそれに食らいついてくれそうだと判断した。Wアカデミーはそういう塾だと聞いていた。小三の二月から、最寄りのWアカデミーの校舎に通い始めた。
理科の先生がこんな話をしてくれた――。算数の先生がこんな解き方を教えてくれた――。小学校の先生とはちょっと違う、ある意味癖のある先生たちから、さまざまな刺激を受け、感化されているのがわかった。中学受験塾って、ただ勉強を詰め込むところではないんだなと知った。
三つある小四クラスのうち、いちばん上と真ん中のクラスを行ったり来たりしていた。御三家といわれるようなトップ校を狙える感じではないけれど、頑張れば、それなりの有名校には手が届くのかなという手応えは当初からあった。
でもまだ小四の時分には、穂高の興味はバスケットボールに向いていた。小学校に入った直後から、ムギトは地元のバスケのクラブチームに所属している。専門の指導者がついているので、お父さんコーチは必要とされないが、毎週末の練習や試合には穂高が付き添い、ムギトに熱心なアドバイスをおくっていた。
高校までバレーボールで鍛え、体育会系精神が染みついている穂高は、バスケについては厳しかった。練習での課題を明確にし、克服し、試合で成果を出すことをムギトに求めた。やると決めた練習をサボったときには厳しく叱った。男と男の約束は絶対だった。