2022.7.18
異端の経営学者が最果てのゲイタウンで考えた「商店街活性化」の鍵
他方で、商店街に「行く理由」ができれば、商店街は復活します。長浜駅前の商店街や小倉銀天街の復活を担ったまちづくり会社が仕掛けたのが、シャッターを閉めた物件を預かり、安全な(反社会勢力ではない)テナントを入居させ、お店づくりからコンサルタントしていくことでした。新しいお店が増えれば、新しいお客さんが訪れて人流が発生します。人流が増えればお店も増えて、新しくお店を出そうとする優秀な経営者も、その経営者に店舗を預けようとする商店街店主も増えていく……この有休不動産を利用した好サイクルによって、商店街の店主とお客さんが入れ替わっていくことで、商店街は復活していく。いわば「街の新陳代謝」をすすめることが商店街活性化に必要不可欠であり、そのためには有休不動産を賃貸市場に流通させることが鍵となる訳です。
ここで大事なことは、商店街の再生には「お店の店主」も「お客さん」も「入れ替わる」ことです。しかし、木村先生の論文を読んだときから、「なぜ、新しい店舗に新しいお客さんが継続的に来るのか?」が十分に説明できないという大きな課題があると、私は考えていました。
確かに、商店街に新しいお店ができれば、付近の住民が見に行くことはあるでしょう。しかし、それが商店街の復活につながる人流に成長するためには、継続的にお店に通う常連客が増えなければなりません。常連客が生まれる仕組みが説明できないと、例え有休不動産を市場に流通させても、「街の新陳代謝」がどう起きるのか分かりません。
「2丁目にもお店はいっぱいあるけどね、そこだと誰に会うかわからないでしょ。だから、沖縄に通っているの。安心できるんだよね」
私に話しかけてきたおじさんは、関東圏から月1、2回ペースで桜坂に通っているそうです。ご家族や友人には既にカミングアウトされているそうなのですが、付き合いの浅い職場の同僚や取引先の人にゲイであることを知られて、要らぬトラブルが生じることを避けるために、沖縄に来ているのです。
15年ほど前、桜坂にゲイバーを最初に作った人が誰なのかは分かりません。しかし、自分と同じ仲間が集まり、出会う場が必要で、アクセスもよく家賃も安い桜坂に、手作りのバーを立ち上げたのだと思います。そして、同じ性的指向を有する人たちが、安心して自分を開放できる場所を求めて継続的に集まる=人流が発生し、そこに通う人の繋がりから連鎖的に出店され、今の桜坂の賑わいが生まれたのでしょう。
そう考えていくと、全国に散らばるシャッター通り商店街は、可能性の塊に化ける可能性を有していると考えられます。下がりきった家賃の不動産情報を市場に流してしまえば、低投資で店舗を出せるので希望者が集まってくる。そして、新しいお店を中心に人流が出来るかどうかは、「ショッピングモールに負けない魅力があるか」とか「危機感を持って新しいことに挑戦する起業家精神があるかどうか」ではない。同じ趣味やライフスタイルを有する人たちが安心して、心地よく感じる街へと再生できるかどうかに掛かっているのではないか。だとすれば、ライフスタイル企業家を一人でも受け入れ、増やしていくことが、より良い社会を産み出していく第一歩になるのでは……そういうことを、那覇の夜に考えてしまいました。
連載第6回は8/15(月)公開予定です。