2022.7.18
異端の経営学者が最果てのゲイタウンで考えた「商店街活性化」の鍵
街は新陳代謝する
「この辺りは家賃が安いから、色んな人が集まって、お店ふえたのよね」
ひとまず桜坂の入り口に出来た観光客向けの屋台村で夕食をとっていたところ、たまたま話しかけられた同年代のおじさんがゲイの方でした。ちょうど良くこの街について色々とお話を聞くことができました。
桜坂地区が変わり始めたのはだいたい15年ほど前、国際通りにもモノレール駅牧志駅にも近い立地でありながら、家賃が安い桜坂地区に目をつけた若者たちがバーやショップを開店したのがキッカケだったそうです。後日、地元の不動産屋を回って確かめていくと、国際通りに面している店舗と比べて、桜坂地区は1/3程度の家賃で貸し出されていました。居抜きの店舗も多いので、バーを出したい仲間が数人集まれば、低投資でお店を出すことが可能です。ゲイバーに限らずこの界隈で出店されている店舗の多くは、明らかに自前で外装と内装をリフォームした手作り感に溢れています。
おじさんの話を聞きつつ泡盛を飲みながら、「なるほどねー」と思い出したのが、私の共同研究者の一人でもある木村先生の論文でした。
木村隆之(2015)「遊休不動産を利用した 「利害の結び直し」 として読み解かれるソーシャル・イノベーション―滋賀県長浜市株式会社黒壁と福岡県北九州市株式会社北九州家守舎の事例」『日本ベンチャー学会誌』 第25巻, 47-59頁.
2016年に日本ベンチャー学会賞を受賞した木村先生のこの論文は、滋賀県長浜駅前の商店街や福岡県北九州市の小倉銀天街をフィールドに、一度はシャッター通りになりかけた商店街が復活したメカニズムを明らかにしたものです。全国的に社会課題になっている商店街の活性化については、大型のショッピングモールに負けない魅力を商店街が持てるように、商店街店主が危機感を共有し、新しいアイディアを持つ人を中心に商店街店主から地域住民まで商店街再生に向けて協力関係を築き上げる必要があるという、通称「やる気ロジック」を中心に議論されてきました。
木村先生は、この「やる気ロジック」に否を突きつけます。まず、多くの地域住民はショッピングモールやコンビニなど行動圏内で買い物が出来るため、商店街が無くなっても実は困りません。商店街店主の側も、バブル景気の時期に商店街の自前店舗を担保にして大型の融資を得て、近辺でマンションやアパート、駐車場のオーナーとなっており、実はお店が儲からなくても問題がない。お店を閉めた場合も、下手に賃貸に出して反社会勢力が入居してしまうと不動産価値=担保価値が下がってしまい、資金繰りに問題が発生してしまうので極力賃貸しなくなる。お客さんも、お店側も商店街も「困らない」から、商店街はシャッター通りになっていく、それが木村先生の見出した商店街衰退のメカニズムです。