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なぜ平成生まれの男はAVで学んだテクニックで女性を傷つけてしまうのか【平成しくじり男 第4回】

「潮吹き」を「射精」のアナロジーで考える誤謬

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「っていうか、なんでそんな指を恐る恐る動かしてんの?」

自分が不自然なほどに弱々しい指入れをしていることに気づかされたのは、とある風俗嬢からの指摘だった。その風俗嬢のことを、仮にAと呼ぼう。

Aとは風俗店で出会った。Aは僕よりいくつか年上の女性で、現役の風俗嬢でありながら、同業の女性に技術講習をする講習員としての仕事もフリーでしていた。講習をする際に受け手になってくれる男性が必要だということで、その役割を依頼されたことがきっかけでAと仲良くなった。

とある日。Aが講習会を開くというので池袋のラブホテルに呼ばれた。その講習会を終えたあと、Aと2人で池袋の居酒屋に飲みにいった。2時間くらい飲んでから居酒屋を出ると、そのままAが僕の家までついてきて、セックスをすることになった。そこでAの膣に指を入れ、いつもの調子で動かしていると、「っていうか、なんでそんな指を恐る恐る動かしてんの?」と言われたのだ。

「むかし彼女に痛いって言われたことがあるから、痛くならないように…」と事情を説明していると、酔ったAは僕の右手を掴んできて、僕の指をAの膣の中で激しく動かしながら言った。

「濡れてるときはこんくらい動かしたっていいんだよ!男性器が平気で入るような場所なんだから」

そう言いながらAが動かす僕の指の動きは、思いのほか激しかった。高校時代に彼女から「痛い」と言われたときよりも激しかった。「こんなに動かして大丈夫なの?」と思わず口にすると、

「それはどのくらい濡れてるかとか、それこそ人によっても全然違うよ。相手に聞けばいいんだよ」

とAは言った。脳天を撃ち抜かれるとはまさにこのようなことを言うのだと思った。どこをどのくらいの強さで刺激されたら気持ちがいいのか、それは相手に聞けばいいのだ。よくよく考えたら当たり前すぎるくらいに当たり前なことだが、「秘技伝授 潮吹き入門」を見て女性を気持ちよくさせる確固たる技術がこの世にあるのだと信じて疑っていなかった僕は、誰かにそう言ってもらえるまで気づかなかった。

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それからは女性とセックスをするときは、どうしたら気持ちがよいのかなるべく相手に聞くよう努めた。膣の中を触られるのが苦手でクリトリスだけを触られたいという人もいれば、中のどこかを刺激されるよりも指を入れたり出したりされることが好きな人もいた。指を3本入れてこちらが引くくらい全力で激しく動かしてほしいという人もいたし、指入れなんかよりもお尻の肉を強く揉んでくれと言ってくる人もいた。相手に直接聞いてみると、本当にいろんな人がいるのだと思った。

友人と一緒にAVを見たときから憧れていた、女性に潮を吹かせるという経験も何度かすることができた。しかし意外だったのは、ほとんどの女性は潮吹きをそんなに快感だとは思っていなかったことだった。達成感があったり、男の人が喜ぶからそれが嬉しいという人はいれど、潮吹きが身体的に快感だという人は少なかった。

そんな事実を知ってからは、どうして昔の自分は女性が潮吹きをすることは快感なことであるに決まっていると、あんなに素朴に信じることができていたのだろうかと疑問に思うようになった。

それはきっと、女性の生理現象のなかで、潮吹きがもっとも男の射精に似ているからではないかと思うのだ。性器が刺激されて快感が高まれば、その証拠に液体が勢いよく外に飛び出す。女性の潮吹きには、男の射精と同じ快感の構造を見いだすことができる。未知の女性の体を理解するのに、男の自分にとっては潮吹きという枠組みがあまりにも理解しやすかったのだ。男の射精のアナロジーで考えるならば、女性の潮吹きは快感に決まっている。

しかしその理解は幻想にすぎなかったと今は思う。

女性に潮吹きをさせたいという欲望の正体。それは、女性のことを気持ちよくさせたいという欲望ではなく、男の射精と同じ快感の構造を女性にも見いだしたいという、男の身勝手な欲望なのではないかと思うのだ。

(第4回・了)

 次回連載第5回は12/18(木)公開予定です。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

X(旧Twitter)@sirotodotei

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