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なぜ平成生まれの男はAVで学んだテクニックで女性を傷つけてしまうのか【平成しくじり男 第4回】

私小説『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』で注目を集めたの山下素童の新連載がスタート!
「平成」という時代に生まれ育った男たちが苦境に立たされている──彼らはなぜ"しくじって"しまうのか?

前回は、2010年代に流行った「恋愛工学」のエピソードでした。
今回は、山下さんが中学時代に見たアダルトビデオの影響を綴っています。
イメージ画像:PIXTA
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中学時代に受けた加藤鷹の洗礼

はじめてセックスをした日。彼女の膣に指を入れたら、「痛い」と言われた。しばらくそのことがトラウマになっていた。

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間違いは、中学3年生のころからはじまっていた。クラスメイトに、とにかく下ネタに詳しい男がいた。その男のことを仮に牧田と呼ぼう。

ある日の休み時間。いつも通り教室の後ろで男友達5人と話をしていると、牧田がやってきて興奮気味に口を開いた。

「父さんの部屋からヤバいAV見つけたから、今度みんなで見ようぜ」

下ネタに定評のある牧田が自信満々にそう言うのだからと、その場にいた5人全員が二つ返事でOKをした。

その週の土曜日の午後。牧田の家にみんなで集まることになった。自転車で10分ほどの距離にある牧田の家に着くと、玄関の前は自転車だらけだった。他の4人は既に家のなかにいた。

「それではさっそく、見ましょうかね」

最後に到着した僕が部屋にあがると、牧田がわざとらしくそう言いながら勉強机の上にあったノートパソコンにDVDを差し込んだ。

そのDVDが読み込まれているあいだ、僕は机の上に置かれたDVDケースのパッケージを眺めていた。M字開脚をする裸の女性の股間に男が指を入れていて、その女性の股間から水のような液体が勢いよく飛び出している瞬間の写真だった。そしてその写真の下のほうには、「秘技伝授 潮吹き入門」というタイトルが印字されていた。

しばらくすると、ノートパソコンのディスプレイにDVDが再生されはじめた。勉強机に座る牧田の頭越しに、その映像を覗き込んだ。

画面上には、黒髪のロン毛を後ろ縛りにした、肌の焼けた男が出てきた。その男は着物姿で、いかにも求道者という感じの雰囲気を醸し出していた。

「この人、AV男優の加藤鷹って言うんだよ。指技がすごくてゴールドフィンガーって言われてんだ」

牧田が後ろを振り返りながら得意気な顔で教えてきた。

そのAVの内容はこうだった。講師役として出てきた加藤鷹が、透明の女性器の模型を用いて、女性に潮を吹かせる方法を生徒役の男に伝授する。加藤鷹の教えによると、どうやら女性器の手前の恥骨のところにGスポットという性感帯があるらしく、2本の指を入れてそのGスポットをすばやく掻き出すように刺激をすると、女性が潮を吹くというのだ。

透明な女性器の模型を用いた説明が終わると、今度は実際に裸の女性が出てきた。まずは生徒役の男が学んだことを実践して女性に潮を吹かせようとするが、苦戦してどうもうまくいかない。それを見かねた加藤鷹が女性の膣の中に2本の指を入れて動かすと、瞬く間に女性の股間からは勢いよく潮が吹きだした。

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「昨日カラオケではじめて彼女に指入れしてさぁ。30分くらいやり続けたから、前腕がすげー筋肉痛だわ」

牧田が実際に指入れを経験したと報告してきたのは、AVを一緒に見てから1年後の、高校1年生の夏だった。牧田とは別々の高校に進学していたのだが、通っている塾が同じだった。たまたま塾の喫茶スペースで鉢合わせた際に、わざとらしく前腕を押さえながら牧田が報告をしてきたのだ。

「でも潮吹きはできなかったわ。先に腕のほうに限界が来て無理だった」

念願の潮吹きには至らなかったらしかった。しかしそんな牧田の実体験を、僕は羨望の気持ちとともに聞いていた。

あのAVを一緒に見た日以来、僕らはみんな加藤鷹のファンになっていた。たしかな技術さえあれば、自分の手の力で女性のことを気持ちよくさせることができる。その事実は、セックスについてなにも知らなかった僕にとってものすごく魅力的に思えた。加藤鷹に忠誠を示すように、胸の前で両手を交差させて2本の指を立てる”ゴールドフィンガーポーズ”を、授業中に先生にバレないようにやっては牧田と目を合わせることを何度もしたのを覚えている。

そんな風に一緒に時間を過ごしていた牧田が、自分よりも早く大人の階段を上ったのだ。羨ましくないはずがなかった。

僕にはじめてその機会が訪れたのは、牧田から遅れて1年後、高校2年生の夏だった。この連載の2話目で、東条さんという女性のことを高校3年間ずっと好きだったと書いたが、実はそのあいだに彼女が1人できていた。

彼女と付き合って2か月くらいしたころ。一緒にテスト勉強をしようということになり、彼女が家にやって来た。しばらく一緒に勉強をし、おやつを食べたあと、セックスをする流れになった。

初めて裸の彼女を目の前にしたときに僕の頭のなかに浮かんでいたのは、指を激しく動かして女性に潮を吹かせる加藤鷹の映像と、「前腕がすげー筋肉痛だわ」とわざとらしく腕を押さえていた牧田の姿だった。

隣で寝そべる彼女の膣に指を2本入れ、指を曲げたところにあると言われるGスポットを指の腹で探した。ここらへんだろうか?と思い悩みながら指を動かすと、彼女の膣からはピチャピチャという音がかすかに聞こえはじめ、彼女の吐息の音もだんだんと大きくなっていった。たしか牧田は前腕が筋肉痛になるくらいに動かしていたな、と思いながらさらに指の動きを強めると、彼女が僕の肩の辺りを掴みながら言った。

「ちょっと…痛い…」

その言葉を聞いて慌てて指入れを中断した。まさか自分が、彼女にそんな痛いことをしているなんて想像もしていなかった。

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女性の膣に指を入れて苦痛を感じさせるほどに激しく動かすことを「ガシマン」と呼ぶと知ったのは、大学生になってからだった。Twitter(現X)でフォローしていた風俗嬢のつぶやきを見て、初めてその言葉の存在を知った。性風俗業の世界では、「ガシマン」は客がする迷惑行為の代表格として扱われていた。

どうして風俗嬢のTwitterアカウントをフォローしていたのかといえば、大学生になってから風俗店に入り浸っていたからだ。もともと女性と関わることが得意ではなかったことに加え、高校時代に彼女に指入れをして「痛い」と言われたことが重なり、自分は恋愛もセックスも下手な人間であると自信を失っていた。

それでも女性に対する興味を諦められなかった僕は、風俗店で女性に指入れをしてゆっくりと手を動かしながら、「痛い」と言われないことを確認しては安心することを繰り返していた。「気持ちいい」と言ってもらえることは滅多になかったが、高校時代に彼女に「痛い」と言われたことがトラウマになっていた僕にとっては、指入れをしても「痛い」と言われないことを確認できるだけで救われた気持ちになっていた。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

X(旧Twitter)@sirotodotei

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