よみタイ

なぜ男は「一か八かの告白」をしてしまうのか? 文化祭でイケメン友人から学んだこと【平成しくじり男 第2回】

私小説『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』で注目を集めたの山下素童の新連載がスタート!
「平成」という時代に生まれ育った男たちが苦境に立たされている──彼らはなぜ"しくじって"しまうのか?

前回は、『モテキ』世代の30代男が派遣社員に恋をした結果、ハラスメントで職場をクビになったエピソードでした。
今回は「告白」という営みを、筆者の高校時代の体験を基に考えます。
イメージ画像:PIXTA
イメージ画像:PIXTA

記事が続きます

文化祭の準備でカップルが続々誕生し……

女性に告白すること。それは一か八かの賭けだと思っていた。

   *

高校に入学してすぐ、隣のクラスの女の子のことを好きになった。その子の名前を東条さん(仮名)としよう。

東条さんはバスケ部に所属していた。笑顔のまぶしいショートヘアの女の子だった。勉強にも部活動にも一生懸命で、他人を貶めるようなことは一切せず、誰から話を聞いても性格がよいと評判だった。

いつかチャンスがあれば東条さんと仲良くなりたいと思っていた。けっきょく同じクラスになることはなかったし、共通の友達と居合わせたときにすこし会話する以上の仲にはなれなかった。

そんな東条さんに告白をしようと考えはじめたのは、高校3年生の6月のことだった。その時期であることには理由があった。

僕が通っていた高校では、毎年6月に文化祭が開かれていた。1.2年生は観客として参加するだけだが、3年生になると体育館の舞台でダンスを披露したり、教室で出し物をすることができた。

3年生になって部活動を引退した者から順に、放課後は文化祭の準備に取りかかることになった。ダンスの振り付けを考えたり、クラスTシャツのデザインを考えたり、教室でどんな出し物をするかを考えた。平時であれば校内に残ることができるのは19時までと校則で決められていたが、文化祭の準備期間だけは22時まで残ることが許された。毎日が合宿みたいな日々だった。

僕のクラスの出し物は模擬店に決まった。なかでも僕は射的を担当することになった。予算が潤沢にあるわけではなかったから、駄菓子だけ予算から購入することにして、その他の景品はクラスメイトの私物から集めることにした。文房具やフィギュア、当時ベストセラーだった『1Q84』や『夢をかなえるゾウ』などの書籍、AKB48のCDなど、雑多なものがたくさん集まった。

なかでもいちばん高価だったのは、任天堂Wii Uのソフト『大乱闘スマッシュブラザーズX』だった。そのゲームは校内屈指のイケメンである遠藤(仮名)の家で友達と集まってよくプレイしたものだった。文化祭が終わればもう受験勉強に集中するからといって、遠藤が射的の景品として差し出してきたのだ。

集まった景品をどんなふうに並べれば1日を通してお客さんが射的を楽しむことができるだろうか。それを考えることが僕の仕事だった。放課後の教室で机を段違いに重ねて射的台をつくり、実際に景品を置いて何十回もプレイしながら考えた。

もちろん、目玉となる景品がすぐに打ち落とされては困るものだ。駄菓子など価値が低いものはいちばん落としやすい手前に起き、書籍やAKB48のCDなどすこし値段の張るものは中段に、そして価値の高い『大乱闘スマッシュブラザーズX』はいちばん高くて遠いところに置くことにした。もっとも価値の高いものはもっとも遠い場所に置く。それが、射的というゲームを面白くするための条件だろう。

こんなふうに書くとすごく真面目に文化祭の準備をしていたみたいだが、実際はそんなに真面目なわけでもなかった。作業中のほとんどの時間、みんな恋バナに夢中だった。というのも、文化祭の準備期間中に嘘みたいにカップルが次々と誕生していったからだ。普段であれば2~3ヶ月に1組くらいしかカップルはできないのに、文化祭が迫ってくると毎日のように新カップル誕生の噂が飛び交った。

そんな異常ともいえる状況が生まれるのも不思議なことではなかった。それまでは男女別々に部活動に打ち込んでいた高校3年生が、引退したとたんに毎日のように文化祭の準備という共同作業をしながら22時まで一緒に時間を過ごすのだ。それに、文化祭が終われば受験勉強一色の季節がやってくる。いま自分たちは最後の青春の中にいるということをみんなが自覚していた。恋愛に情熱を捧げる条件が、あまりにも揃いすぎていたのだ。

かくいう僕は連日のカップル誕生の噂を耳にしながら、とても焦っていた。この流れに乗らなかったら、東条さんに告白するタイミングを失うのではないか。自分だけいつまでたっても告白できずにうじうじしてるのは嫌だ……。

「俺、決めた。来週の月曜日、東条さんに告白する!」

とある日の深夜。当時流行っていた国産のSNS「mixi」の日記で僕は高らかに宣言をした。mixiには指定した友達だけに日記を限定公開できる機能があった。僕は3人の男友達だけに日記を公開していた。その3人にはそれぞれ片想いの女の子がいて、恋の進捗を日記で共有しあう仲だった。

「まじ!? じゃあ俺もその日に告白しようかな」
「えー、じゃあ俺も!」
「俺も告白するっ!」

公開してすぐ3人からコメントがついた。みんなも僕と同じく焦っているようだった。

「俺もその日に告白していい?」

4人で同じ日に告白することを昼休みにお弁当を食べながら話していたら、それを聞いていたイケメン遠藤まで参戦することになった。話を聞くと、遠藤は前々から自分に言い寄ってきて最近セックスまでしたバレー部の女の子に告白するようだった。

「お前それ勝ち確だろ」
「せこすぎるわ」

片想いしかできていない僕ら4人から遠藤はそんな非難の言葉を浴びた。しかし遠藤の告白を止める権利は誰にもなかった。

次の週の月曜日。僕は放課後に東条さんを空き教室に呼びだした。手には東条さんにプレゼントするためのストラップを握りしめていた。ゾウとパワーストーンがついたそのストラップは、自己啓発小説『夢をかなえるゾウ』の関連グッズだった。射的の景品としてクラスメイトが持ってきた『夢をかなえるゾウ』を空き時間に読んだら、僕はすっかり啓発されてしまったのだ。

物語のあらすじはこうだ。主人公は「成功したい」と願う平凡な会社員の男。ある朝、二日酔いで目を覚ますと、目の前にゾウの姿をしたインドの神様・ガネーシャが現れる。なぜか関西弁を話すガネーシャは、成功するために必要なちょっとした課題を主人公に課してゆく。最初こそ主人公はガネーシャの言うことに戸惑うが、一つひとつの課題をこなしていくうちに、だんだんと「夢を語るだけの人」から「夢に向かって行動する人」へと変わっていく──。

「本気で変わろ思たら、意識を変えようとしたらあかん。意識やのうて、『具体的な何か』を変えなあかん。具体的な、何かをな」

僕も具体的に行動できる人にならなきゃと思い、東条さんに告白する決意を固めたのだった。なんなら東条さんにもその本をプレゼントしようとAmazonで新品を探したところ、関連商品として『ガネーシャ パワーストーン ストラップ(合格運) 夢をかなえるゾウ』という商品名の、ガラケー用ストラップと出会った。健康運や恋愛運のパワーストーン付きのものもあったけど、これから受験勉強の季節になるから合格運のパワーストーンがぴったりだと思い、本ではなくストラップをプレゼントすることに決めたのだった。

「僕は東条さんのことが好きです。真面目な性格の東条さんとなら、お互いのことを高め合えると思うし、これから一緒に受験勉強を頑張って、将来のことも考えたうえで付き合いたいです。これ合格運のお守り、よかったら受け取ってください」

そう言いながら『ガネーシャ パワーストーン ストラップ(合格運) 夢をかなえるゾウ』を東条さんに手渡した。

記事が続きます

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

X(旧Twitter)@sirotodotei

週間ランキング 今読まれているホットな記事