2022.7.14
ギクシャクした推しとの関係……柴田勝家に一歩踏み出す勇気をくれたもの
「大名」&「征夷大将軍」の特別な権利
ところで、戦国メイド喫茶の手形(ポイントカード)には色々な特典がある。
単純なところではランクアップすると一時間ごとのチャージ料金が安くなる。一時間500円のチャージ料金は「大名」で100円になり、「征夷大将軍」ではタダになる。なんともお得だ。まぁ、元を取るためには十年くらい通う必要があるかもしれないが。
しかし、チャージ料金の割引などはオマケである。誰もが目指してやまない「大名」と「征夷大将軍」には特別な権利がある。
それは「側室」もしくは「正室」をメイドさんから選ぶ権利だ。
簡単に言えば「公開推し宣言」で、指名したメイドさんと特別なチェキを撮り、それを店の壁に貼り出すのだ。この権利は各メイドさんにとっても一回きりで、基本的には別の人と撮り直すこともできない。あと申告がない限り、メイドさんが卒業した後にもチェキは壁に残り続ける。
ワシは店に行くたび、壁に貼られたチェキの群れを眺めていた。写っているのは見知っている常連さんと、ワシも会ったことのない歴代のメイドさんたち。台紙には各メイドさんの名前と日付、直筆メッセージが添えられていて、まさに戦国メイド喫茶の歴史そのものだ。ちなみにワシの元推しである前田きゃりんちゃんのチェキもあり、見るたびに羨ましく思ったものだ。これこそ「推し」と一生を添い遂げる、大名と征夷大将軍だけに許された特典なのだ。
「で、ワシも大名になったんだが」
ヌルっと手形は更新され、特別感のある白地のものになった。かくしてワシもメイドさんを側室に迎える権利を得た。
「かっちゃん、どうよ? 大名になった?」
「お、ねこさん。ほれ」
話しかけてきたのは同じ朝倉軍のねこさんだ。当然、彼も推しであるきょうちゃんと大名チェキを撮りたい身で、以前からどちらが早く大名になれるか競っていた。
「負けたかぁ、しょうがない、きょうちゃんと大名チェキ撮りなよ」
「ああ、まぁ。そうだな、ねこさんには将軍チェキの方を譲るからさ」
「よし、約束だからな!」
ワシが大名チェキを、ねこさんが将軍チェキを撮る。それが朝倉軍を作った者たちの使命だと信じていた。朝倉きょうちゃんと撮ったチェキを店の壁に貼ることで、ワシらも戦国メイド喫茶の歴史に残りたかったのだ。
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