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ライジング!

最終回 終わらない仕事も、明けない夜もない! 暗闇にいた男が目にした光

日の出前が一番暗い

 強烈な喉の渇きで目が覚めた松田は、見慣れない天井に首をかしげた。自分は一体どこで寝ているのか。体を起こすと、見慣れた光景がそこにあった。
「ああ、会議室か」
 松田が寝ていたのは照鋭社の各階にある小さな会議室だ。小さいながらソファーもあるので、そこで仮眠をとる人も多い。

 痛む関節をほぐしていると、松田は段々と昨日の出来事を思い出してきた。
 中華屋の後は三軒ハシゴして、結局全部で四軒の店を飲み歩いたのだ。参加者は店を変えるごとに減って行き、最終的に残ったのは松田と小柴と野島の三人だった。四軒目も営業終了だと追い出され、でもなんとなく帰りがたかった三人は、始発まで飲もうと編集部に戻ったのだった。
 松田の記憶はそこで途切れている。きっと力尽きて寝てしまったのだろう。

 ふとテーブルを見ると、ペットボトルに入ったミネラルウォーターが二本置いてあった。小柴か野島が置いてくれたのだろう。松田は一本を手に取って一気に飲み干すと、「ふう」と息を吐きだした。まだ渇きは収まらない。二本目のキャップを開けて、今度はゆっくりと飲み始める。
 そこで気づいたのだが、テーブルには小柴からの書き置きがあった。

『野島と私は先に帰ります。お水を飲んで、ちゃんと酔いをさましてから帰るように。あと、一軒目のドッキリごめんね♡』

 可愛いハートつきの文字を見ていると、絶妙なタイミングで吐き気が襲って来た。
「んぐ……起き抜けにおじさんのハートマークはきついな……」
 ふらつく体でトイレに行き、用を足してから洗面台で顔を洗い、コーヒーメーカーで濃い目のコーヒーを淹れて休憩スペースに座ると、自然と吐き気は収まっていた。
 
 時刻は六時を過ぎたところだ。ブラインド越しでも外が明るくなっているのが分かる。するとそのとき、松田は不意に、自分が社内で冷遇されていたときのことを思い出していた。
 何でそんなことを思い出すのだろうか。
「あっ、そうか」
 原因は窓の外の景色だ。やることがないときは、いつも自分の席から外を眺めて、陽が沈むのを待っていた。とにかく一日が終わることだけを祈って過ごす日々だったのだ。
 窓の外を見て太陽の動きを観察する――
 当時と同じ行為を取ったがゆえに、昔を思い出したのだろう。
 でも今はちがう。当時とは全くの逆。日の出を待つ状況だ。松田は指でブラインドにスキマを作って外を見た。まさに太陽が昇って来ていた。

〝マンガホープ〟のバージョンツーは立ち上がったばかり。この先様々な困難が待ち受けているだろう。自分のように、沈んでしまうこともあるかもしれない。でも大丈夫、たとえ沈んでも、また昇って来ればいいのだ。
 コーヒーを飲み干し、カップを捨てた松田は身だしなみを整えて会社を出た。
 少し冷えた朝の空気を吸いながら歩いていると、完全に姿を現した太陽が背後から日光を浴びせかけてくる。伸びた影の周囲で、アスファルトがキラキラと光っている。松田にはそれが、未来を照らす希望の光に見えた。

――――

連載小説「ライジング!」お楽しみいただけましたか? 漫画アプリ開発の裏側や、出版社の多岐にわたる業務内容、神保町界隈のグルメ情報など、いろんな観点から〝照鋭社〟を身近に感じていただけたのではないでしょうか。志田用太朗先生の次回作にご期待ください!

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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