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ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、開発費の支払いをめぐり窮地に追い込まれていた太陽たち。しかし、小柴の飲み友達“ダイちゃん”が取引先の会長だったことで、事態は好転したのだった。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第32回 結局、誰もが傷ついた……「アプリ妨害計画」の苦い結末

「ライジング!」 第32回

 四月某日、氷上に呼び出された上條と夢岡が、うす暗い喫茶店で彼と相対していた。個人経営の小さなその店は時代に逆行するように全席喫煙可で、客が疎らな店内では愛煙家たちが紫煙をくゆらせていた。氷上もぱっぱっと音をたててフィルターを吸うと、もわっと煙を吐き出して、大きなガラス製の灰皿に短くなったタバコを押し付けた。
 上條は嫌味のようにせき込み、手をパタパタ仰いだ。

「で? 話ってなによ」
 その言葉で氷上の頭に血が上ったようだ。
「分かるだろ! 早く報酬をくれよ! こっちは言う通りに動いたじゃないか!」
 上條の横にいた夢岡が、まあまあと氷上をなだめるのだが、彼の怒りが一向に収まる気配はない。一方の上條は突き放すような態度だ。
「結果が伴ってないでしょ? こっちは〝マンガホープ〟のローンチを一か月半遅らせるように指示したのよ。それが二週間ぽっちの遅れだなんて」
「……それ以上は引っぱれなかったんだよ。ウチへの発注元はナノ&ナノだし、担当者は技術屋だ。あれ以上引っぱろうとすると目論見がバレることだってあり得た。こっちだってギリギリの判断だったんだよ」
「フン、それはまあいいわ。その代わりに、アプリに壊滅的なダメージを負わせるよう約束したじゃない。それはどうなってるのよ?」
「言われた通りしたさ! メンテに入れば、あのアプリは終わりだよ!」
「ウソね。まだ普通に動いてるじゃないの」
「知らねえよ!」
 そう吐き捨てると、氷上はイライラした様子で次のタバコに火をつけた。そして深呼吸するように煙を大きく吸い込むと、ため息とともにそれを吐き出した。上條が顔をしかめて煙から逃げるように横を向いた。
 
 それを見た氷上は、ほんの少し溜飲が下がったのか、落ち着いた様子で喋り出した。
「こちとら〝マンガホープ〟の開発費も入って来るかどうか分からないって状況なんだ。ナノ&ナノが照鋭社からお金を取るのをやめて、ウチへの支払いを拒否してきたからな」
「そうなんですか?」
 夢岡が驚くと、氷上は舌打ちをして天井を見あげた。
「ああ。どっちも引かねえから、恐らく裁判になる。判決がどうなるかは分からない。だがどう転んでも、オレのEセサミでの評価はダダ下がりだ。居場所なんかなくなっちまう」
 そう言うと氷上は、まだひと吸いしかしていないタバコを灰皿に押し付けた。
「だから、まとまった金を受け取ったら、転職活動でもするつもりだ。……どうだい? あんたの会社で雇う気はないか?」
 冗談半分で言った氷上に、上條は冷たく言い放った。
「誰があんたみたいな無能を雇うのよ」
 そのときだった。

 バァン!
 大きな音をさせて、氷上がテーブルに両手をついた。完全に頭に血が上った氷上が、ガラス製の大きな灰皿を手に掴む。顔は真っ赤で目は焦点が定まっておらず、我を失っているようだ。
「あぶない!」
 氷上が灰皿を振りかぶったのを見て、夢岡が上條に覆いかぶさった。
 ガコン!
 鈍い音が聞こえ、続けて「キャアアアアアア!」という悲鳴が店内を満たした。テーブルには頭を血で染めた夢岡がいる。その傍らで、ガラスの灰皿を持った氷上が虚ろな表情のまま肩で息をしていた。
 早く警察呼ばなきゃな……そういえば、この店の近くに交番があったな……。
 まるで他人事のようにそう思いながら、氷上は全く動かない夢岡を見おろしていた。

「アプリ妨害計画」は、誰にも何ももたらさない最悪の結末を迎えた
「アプリ妨害計画」は、誰にも何ももたらさない最悪の結末を迎えた
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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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