よみタイ

ライジング!

第5回 それも僕の仕事なの!? いきなり渡された重たいタスキ

電子化NGの大御所作家を説得する

「会ってこいってコシさん……誰が?」
「タイヨーが」
「……誰に?」
「天神先生に」
「ええええええええ!」
 改めて驚く松田。まさか自分が、昔から読んでいた漫画の著者に会える日が来るとは思っていなかった。漫画編集部に配属されたならまだしも、デジタル開発部ではなかなかそういった機会はなかった。しかも相手は天下の大作家、天神旭也だ。
 軽く震える松田に、野島が言う。
「天神先生が今、グランドホープで描いてるのは知ってるよな?」
「はい、知ってます!」
 天神旭也は『ブレイブチェーン』の連載終了後は、週刊少年ホープから週刊ヤングホープ、そしてグランドホープへと活躍の場を移し、ヒット作を連発していた。歴史ものや現代劇からSFまで、天神作品のジャンルは多岐に渡る。豊富な人生経験に裏打ちされた濃密な物語は、〝天神節〟といわれるセリフ運びの妙も相まって、多くの読者を虜にしていた。

「当然コシさんやオレとしても〝マンガホープ〟に天神作品をラインナップしたいんだ。でも天神先生は漫画のデジタル化をNGにしてる作家の一人なんだよ。他の作家さんは我々で説得するんだけど、天神先生の説得はタイヨーに頼みたくてな」
「え! どうしてですか?」
「実は天神先生には以前からWEB掲載をしませんかってことを、根気強く頼んでたんだが、色よい返事が貰えなくてな……。照鋭社としてはこれ以上しつこく頼んで、変にへそを曲げられると困るってことになったんだ。それで二年ぐらい前に、天神先生の初代担当が『編集部の人間は天神先生に電子化のお願いするの禁止』って通達を出したんだよ」
「初代担当って?」
「高津常務」
 野島がため息交じりに言葉を吐き出す。
 
 高津鉄人たかつてつんどは週刊少年ホープの黄金期に数々のヒット作を世に出した敏腕編集で、押しの強さは社内随一。鉄の意志を持ち、一度言ったことは決して曲げないため、陰で〝アイアンマン〟と呼ばれているような人だ。畑違いの松田も、高津の剛腕伝説の噂は耳にしたことがあった。
「高津常務か……それは逆らえないですね」
 長年やっている大御所作家ともなると、自然と付き合いのある社員の役職も上がっていく。作家本人に偉ぶった所が無かったとしても、付き合う方としては少し身構えてしまうのが現実だ。
「そこでキミの登場だよ、タイヨー」
 小柴の目がキラリと光った。付き合いはまだ短いものの、松田は小柴の表情を見れば、どんなことを考えているか、ある程度予想ができるようになっていた。今の小柴は、突拍子の無いことを考えているような表情だった。
「高津さんは、編集部の人間は天神先生に電子化のお願いするの禁止……って言ったんだよ」
 松田は嫌な予感がしていた。とんでもないことを言われそうな予感が。
「つまり、デジタル開発部所属の人は、天神先生に電子化のお願いしてOKってことなんだよ!」
 松田の予感は、あっさり的中した。

「た、高津常務に知られたら、コシさんも叱られますよ!」
「いや、私のロジックには理がある。こういう場合は、高津さんもそこまで怒らない筈だ」
「本当ですか……」
「本当! なにせ高津さんは、私が新入社員として入ったときの直属の上司だからね。あの人の考えていることは、手にとるように分かる。あえて自分の言葉にスキを作って、編集部以外の人が天神先生に電子化のお願いに行けるようにしたんだ。たぶん恐らくきっと、そんな気がしなくもなくなくない」
「どっちなんですか結局!」
 松田が小柴と言い合っていると、じっと話を聞いていた野島が軽い調子で割って入って来た。
「ま、ダメ元で行ってくれないか。天神先生には会いたいんだろ?」
「それはそうですけど……」
「グランドホープの担当に顔をつないでもらうから、よろしく頼むぞ」
 話をまとめるように野島に言われ、松田は頷かざるを得なくなった。今一度手元にある『ブレイブチェーン』を見てみる。一つのたすきを繋いでいく、駅伝の物語。いま自分は、とんでもなく重い襷を受け取ってしまったのかもしれない。

いきなりこの襷は重すぎる!?
いきなりこの襷は重すぎる!?
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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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