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ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、突如として漫画アプリ開発メンバーに指名された松田太陽。素直には喜べない太陽だったが……。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第2回 左遷なのか抜擢なのか……揺れる心に沁みるアイラモルト

「ライジング!」 第2回

「じゃあ顔合わせも終わったことだし、新メンバー参加を祝してメシでも行くか。タイヨーはこのあと時間ある?」
「あ、はい」
 松田が答えると、小柴はスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。
「二十分後ぐらいに三人なんですけど席あります? ……大丈夫ですか。はい、小柴です」
 電話を切った小柴は「カバン取って来るから裏受付で待ってて」と言い、野島と共に自席へと向かった。

 着いたのは赤坂にある〝巴沢食堂ともえざわしょくどう〟という和食屋だった。
 店内に入ると、大きなコの字型のカウンターが目に入ってきた。テーブル席もあるにはあったが、このカウンターが座席の八割を占めている。カウンターの中には着物の上に割烹着を羽織った女性店員と、パリッとした調理白衣を着た料理人がいそいそと動きまわっている。
 高級感と大衆感が絶妙なバランスでミックスされた雰囲気だった。
 すると女将のような女性がスススと近寄って来て小柴に声をかけた。
「小柴さんいらっしゃい。そちらへどうぞ」
「どうも。……じゃあタイヨーは真ん中で」
 小柴に促されて着席すると、松田は改めて店内を見た。スーツを着たサラリーマン客が多いようだ。自分のように若い客はおらず、年齢層の高めな落ち着いた客層だ。ほぼ満員ではあったが、イスも大きくスペースもゆったり取っているので狭苦しさは感じない。

「どうぞ」
 手渡された厚手のおしぼりで手を拭うと、一日の疲れがおしぼりに乗り移ったかのようにサッパリした気分になる。
「いい感じの店ですね……」
 松田がつぶやくように言うと、左隣の小柴が頷く。
「でしょ? ここ紹介制だから後で女将に名刺渡しときなよ。あとこれメニュー。好きなの頼んで」
 渡されたメニューを見た松田が、幾つかメニューを選んで注文する。ドリンクは小柴と野島に合わせてビールにした。

 乾杯が終わると、さっそく料理が運ばれてきた。
 物珍しさで思わず注文した一品、ソフトシェルクラブの天婦羅だ。殻ごと食べられるソフトシェルクラブに衣を薄くつけて揚げたものらしい。
 天つゆと目の細かい塩が添えられていたが、松田は何もつけずに食べてみた。
 パリッという小気味のいい音と共に旨みが口に広がる。衣と殻と身、三種の食感がまた楽しい。飲み込む際にもノドに何の引っかかりも感じなかった。よほど柔らかい殻なのだ。
 ビールで口内を冷まし、次を口に放り込む。うまい。感動的だ。そして次。うまい。
(あ、しまった!)
 ここで松田は自分のミスに気が付いた。小柴と野島の分を残していなかったのだ。
「すいません、ほとんど食べちゃいました」
 松田が謝ると、右隣の野島が手を振った。
「気にしなくていいって。また頼めばいいだけだから」
「でも結構高そうですよコレ……」
 そう言ってメニューを見た松田は首をかしげた。値段が書いていないのだ。
「まさか……時価!」
 松田の言葉に野島がクスリと笑った。
「ちがうちがう」
 そう言った野島が、松田に意外な事実を告げた。

「ここ定額制なんだよ。一万円で飲み放題で食べ放題」
「えっ!」
「オレも最初小柴さんに連れて来てもらったときに驚いたよ。この雰囲気で食べ放題って信じられないよなぁ」
 野島の言葉に小柴がニヤリと笑う。
「みんな驚くんだよ。その顔を見て飲むビールがまたうまくて……フフッ! だから遠慮なく食べて」
「は、はい!」
 定額と聞いては沢山食べなければ損する気がする。根が貧乏性の松田は次々に料理を注文して、そのどれもに舌鼓を打った。
 ブリ大根のブリは食べやすい大きさですぐ身がほどけ、大根は味がしみ込んでいる。そして添えられたインゲンやゆずの皮は、良いアクセントになっていた。
 牛カツは、ザクッとした衣が牛肉のうまみを上手く閉じ込めており、レモンをしぼって食べると絶品だ。
 チキンソテーは低温でじっくり焼いたのか、肉がうっすらピンク色を残しているのに、皮目はパリッとしている。味付けは塩のみなのだが、かえって鶏の味を濃く感じた。
 きんぴらごぼうは土臭さがなく、甘めの味付けでご飯にも合いそうだ。
 カマンベールチーズの味噌漬けは、チーズと味噌の塩気がバッチリで、ビールが進んで仕方がない。

「プハーーッ! おいしかった~!」
 結局松田はビールの中瓶を六本あけていた。小柴や野島はどこかで焼酎に切りかえたらしく、水割りのグラスが目の前にあった。
「タイヨーはけっこう飲むタイプだな。よっしゃもう一軒だ! ……その前にトイレトイレ」

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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