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第1回 ペットは子どもより多く、法律にも影響。大ペット時代到来!

日本では少子化が問題になる一方、ペットの頭数や種類はどんどん増えています。近年は微減傾向にありますが、平成29年の調査では犬猫のペットだけでおよそ1844万頭にのぼり、15歳未満の子どもの数の約1570万人を大きく上回っています。ウサギやカメなどのエキゾチックアニマルを含めれば2000万頭以上にも! いまや子どもよりも多いペットは人間社会にすっかり溶け込み、さまざまな問題やビジネスに関わっているのです。

この連載ではこうした現状を踏まえ、ペットと社会のさまざまな関わりを取り上げていきます。記念すべき第一回は、連載に臨む前提として、さまざまな動物が関わる法律を取り上げたいと思います。動物に関する法律に今、注目するべき理由があることはご存知でしょうか。

 今秋に改正を控えた「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」。自分はペットなんていないから関係ない、なんて思っていませんか? 実はそうではないのです! この法律は「国民に動物をかわいがる気持ちを起こす」という目的や、ペットが地域に溶け込んで暮らせるようにサポートする役割もあり、実は飼い主以外の多くの人たちにも大いに関係ある法律の一つなのです。

 しかも、この「動物愛護管理法」は5年に1度の間隔で法改正されていて、そのたびに見直しや追加を求める大規模な署名運動が起きています。今どうなっているのか、今後どうなるのか――。飼い主でも知らないことが多い、このいわば動物の基本法ともいうべきものを見直してみましょう。

日本の動物愛護は神話の時代から始まった!?

 まずは日本の動物に関する法律の歴史を振り返ってみたいと思います。日本で最初に施行された動物愛護管理法は、675年に天武天皇が発令した「殺生禁断の詔勅」。これは狩猟や漁業の手段や期間を定めたり、肉食を禁じたりするものなのですが、まるで神話の時代から動物愛護が始まっていたようではないですか? この詔勅は動物愛護管理の法律としては世界最古ともいわれています。

 江戸時代になると、徳川綱吉によって「生類憐れみの令」が発令されました。いわゆる「お犬様」で有名ですね。この決まりは綱吉が亡くなった後に廃止された部分もありますが、実はこれが現代の動物を愛でる文化へとつながっていきます。そして明治時代になると「ペットの飼い主」という概念が欧米から上陸し、その後の昭和時代(1973年)に、ついに現在の動物愛護管理法のベースとなる「動物の保護及び管理に関する法律」が制定されるに至るのです。

 日本は欧米に比べて動物の法整備が遅れた「ペット後進国」といわれることもありますが、時代の為政者たちが動物に関わるさまざまな法律を発令してきたのもまぎれもない事実。「人も動物も同じ生き物」と考え、殺生や虐待を忌む気持ちで世界最古の法律を作った歴史があるのです。それが日本独自の動物愛護やペット文化として、現代の人間社会に根付いているわけですね。

人と動物の付き合い方で法律は変わる

 動物に関わる法律は日本人と動物の付き合い方が変わるにつれ、変化してきました。動物愛護管理法のベースとなる法律が制定された1970年代頃も、犬は庭に繋いで飼うのが一般的で、ペットというよりは番犬。猫は福を招く縁起物として室内で飼われることもあり、犬より現在のペットに近かったかもしれませんね。飼い主を持たない野良犬や野良猫もたくさんいました。

 その後ペットブームが何度か起き、徐々に「ペットは家族」という考え方が浸透していきます。それに合わせてペットにまつわる医療やビジネスも発展。その一方、人と動物の距離がぐっと近づいたことで、数々の問題、特に犬猫の問題が起き始めてしまうことに……。犬に噛まれた、吠え声がうるさい、猫の排泄物で汚れた……などのご近所トラブルですね。その結果、これらの問題を(言い方はアレですが)手っ取り早く解決するために、飼い主がペットを保健所に持ち込むケースが急増という悲しい状況に。それだけが原因ではありませんが、平成元年になっても殺処分頭数が野良を含めても1000万頭を超えていたのも事実です。

 こうしたペットの問題を憂いた動物愛好家が保護活動を行い、ペットの法律の改正を働きかけてきました。そして今年は5年に1度の改正の年! まずは、今までとこれからの法律を見てみましょう。

法改正で飼い主もご近所もペットもみんな幸せ!

 動物愛護管理法は、単純に「動物を守ろう!」という法律ではありません。例えば前回の平成24年の主な改正ポイントをざっくり紹介しますね。

(1)生後56日未満の犬猫の販売を禁止する(現在は移行中のため49日でも可)
(2)動物保護団体などに都道府県知事への届け出を義務付ける
(3)保健所で引き取った犬猫は譲渡に努める
(4)災害時の動物の扱いについて「動物愛護管理推進計画」に追加する
(5)飼い主は動物が命を終えるまで世話をするように努める

 こんなことが人間社会に関係あるのか? と思うかもしれませんが、大いに関係あるのです。政治家で結成された「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」をはじめ、多くの団体や識者によって、さらに法律の見直しを求める運動が起きているほど。さらに前述の連盟や動物との共生を考える連絡会が求める今年の改正ポイントを見ていくと……

(1)生後8週齢(56日)規制を施行する
現在はひとまず7週齢(49日)でも販売OKというアバウトな状態。それを今度こそ8週齢に決めよう! というのが今回の改正ポイントです。実は子犬を8週齢未満で親元から引き離した場合、成長した後に噛んだり吠えたりしやすくなるのです。このような問題行動が起きると、飼い主もご近所もペットも困ってしまいますよね。それが親元から離すのを8週齢にするだけで、みんなが幸せになれるかもしれないのです。なのに、子犬や子猫のほうが売れやすいため、この規制に反対しているペット販売業者も少なくありません。これはより幼い犬猫を好んで購入する飼い主側の問題も含んでいるといえます。

(2)飼い主に適正飼養を義務付ける
動物の一生を終えるまで世話することを飼い主の義務にしようというもの。かつて殺処分頭数の多さが社会問題になりましたが、野良ではなく、飼い主が持ち込んだペットも多かったのです。現在は努力となっている部分を、今回はもう一押しして義務にするのを目標としています。

(3)第一種動物取扱業を免許制にする
第一種動物取扱業(ブリーダーやペットショップなど)を免許制や許可制に変えることです。劣悪な環境の「子犬工場」がニュースで報道されましたよね。ペットの繁殖や世話が適正に行われるように規制を厳しくすることが目標です。

(4)アニマルポリスを設置する
近年、動物虐待の事件を目にすることが増えたと思いませんか? アニマルポリス(動物監視員)を設置して、警察のように動物に関する事件を捜査できるように検討を求めています。

(5)災害時はペット同行避難とする
自治体の地域防災計画にペット同行避難を盛り込むこと。避難所にペットが入れない地域では、飼い主がペットと車中泊をしたり危険な自宅で暮らしたりするケースがあるからです。人命を守るためにも重要でしょう。

ペットの立場で考えて 一歩進んだ社会へ

 法改正のもう一つのポイントは、動物愛護管理法を「動物福祉」の法律に変更を求める動きです。ペットを愛でる文化を育んできた日本では、動物に対して理論ではなく感情で考える傾向があります。「かわいい」「かわいそう」と自分の感情を投影する「愛護」になりがち。その気持ち自体はもちろん大切なものではありますが、「快適か」「つらくないか」と動物の立場で考える「福祉」の目線も重要ですね。今回の法改正は、日本人と動物の関わり方がさらに変わるきっかけになるかもしれません。

 人と動物の関わりは長く深く広いもの。歴史、文化、法律、医療、ビジネス、暮らし……あらゆる分野にわたり、互いに影響を与えています。ペットは日本人の社会や心理を写す鏡とも言えるでしょう。「ペット2.0」では、今後も一歩踏み込んだペットの話題を取り上げることで、人間社会の問題にも触れていきたいと思います。ペットをはじめとした動物、そして人間社会について考える際の材料のひとつになれれば幸いです。

■今後取り上げるトピックス(予定)
・歴史:犬が人類最良の友になった理由と、猫が人類の支配者になった理由
・文化:ペットの名前にはキラキラネームが少ないってホント?
・医療:動物の高度医療最前線! ペット用コンタクトレンズの誕生
・ビジネス:人に癒しをくれる猫カフェやフクロウカフェ。裏側で疲弊する動物
・法律:動物虐待の通報は地域の子どもを守ることにもつながる
・暮らし:災害時にペット同行避難をするために知っておきたいこと

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新刊紹介

金子志緒

かねこ・しお●ライター・編集者/レコード会社と出版社を経てフリーランスになり、雑誌、書籍、Webの制作に携わる。主な取得資格は愛玩動物飼養管理士、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のジュウザに続いてサウザーを迎え、おもしろおかしく暮らしている。
ブログ:www.shimashimaoffice.work

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