2024.6.1
ビッグな先輩が教えてくれたスペシャルな「広島焼き」
日本の「おいしさ」の地域差に迫る短期集中連載。
前回までは、5回にわたり白熱の「うどん編」をお送りしました。
今回からは、お好み焼き編をお送りします。初回から、物議を醸すあの名称が……。
お好み焼き編① 広島風のお好み焼きは感動の味わいだった
僕が初めて広島風のお好み焼きに出会ったのは、30年以上前の京都での大学時代でした。バンドサークルの先輩、東京出身のFさんに連れて行ってもらったのです。Fさんはヴォーカリストでした。TUBEの前田亘輝氏を敬愛していたのは当時の大学生としても相当渋めでしたが、歌は抜群に上手く、もしかしたらその気になればプロを目指せるくらいなのではないかと皆が認めていました。
そういう特異能力者にありがちなことですが、Fさんはなかなかの生活破綻者でもありました。授業にはほとんど出ることなく、当然、単位は片っ端から落としていました。それだけならまだ自己責任ということで済むかもしれませんが、Fさんは授業だけでなくバイトも大嫌いで、そのくせ妙に金遣いが荒かったので、どうも借金は膨れ上がっていくばかりだったようです。
借金苦に陥ったきっかけは、Fさんがある日、買い物中に勧誘されてよくわからないまま作った、某ファッションビルのクレジットカードでした。
「カードなんてあんまり使ったことがなくてよくわからなかったからさ、とりあえず言われた機械に突っ込んでみたんだよね。で、なんか適当にボタン押してたらさ、驚いたことに機械からニュッと万札が出てくんだよ。もう一回カード入れて同じことしたらまたニュッと出てきて、もう猿みたいにそれを繰り返してたらいつの間にか手元に10万あるわけ。これは凄いものを手に入れた、これでもう永遠にバイトなんてしなくていいじゃん、って思ってほくほくして毎日のように通ってたら、いつの間にかえらいことになっちゃってさ」
自業自得と言うべきか、むしろ社会問題と言うべきなのかはさておき、人間、借りたものは返さねばなりません。僕はこれでFさんもいよいよ一発逆転を狙ってプロ・ヴォーカリスト目指して精進するのではないかと密かにワクワクしていたのですが、残念ながらFさん自身にその気は全く無いようでした。しかしその代わりFさんは、誰も予想しなかったアクロバティックな方法で、その借金を全額返済したのです。
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Fさんは麻雀が異常に強かったのですが、学生同士のチンケな勝負では飽き足らず、繁華街の雑居ビルにあるかなりヤバめの雀荘に通っていました。まあそもそもそれも借金が増えた一因だったのかもしれませんが、とにかくF先輩はなぜかこちらの方で一念発起。麻雀専門誌が主催する全国大会に出場します。F先輩は順調に勝ち上がり、なんと決勝リーグまで進みました。当時有名だったタレント雀士とも卓を囲み、その賞金なのか***金なのかは分かりませんが、何しろ借金問題は(今後に漠とした不安を残しつつも)いったん解決しました。
これはお好み焼きの話ではなかったのか、いったい自分は何を読まされているのだ、という読者諸氏の困惑を想像すると(そしてそれ以前に、編集者氏がこれを許してくれるのかという不安もあり)若干身がすくむ思いではありますが、これは大事な部分なので、もうしばしお付き合いください。
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さてFさんの散財の対象は、ヤバい雀荘以外に、例えばファッションがありました。ある時Fさんは、謎のテンガロンハットに、何のために付いているのかよくわからないビラビラがぶら下がったスウェードのベスト、そして踵にピザカッターが付いたゴツいブーツという、音楽の趣味以上に渋すぎるコーディネートを10万円以上かけて揃えました。もちろん金の出所は、そもそもの諸悪の根源である例のクレジットカードです。しかもお店でカードを切るのではなく、いつものように機械からニュッと出した万札を揃えて、颯爽と現金購入したのです。お金のことに疎い我々も、さすがにそれは手数料だの利息だの、あからさまに何らかの損をしていそうな気はしましたが、Fさんはもちろん、そんな細けえことにこだわるような小さい男ではありません。
そのオシャレ上級者すぎる一揃えのコーディネート、Fさんとしては一応「ステージ衣装」という名目があったようです。しかし、どうせ身内しか来ないサークルのライブというか単なる定期発表会のためにその散財は明らかにやりすぎでは、と我々は陰で囁き合いました。百歩譲って例のカードが本当に魔法のカードだったとしてもです。
しかしライブ当日、スポットライトを浴びて「あーー夏休み!」と全く音程をブレさせることなくハイトーンシャウトを決めるFさんは、確かに輝いていました。ピザカッターもキラキラしていました。
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