2024.4.20
やわらかいうどんは時代遅れ? 存在感を放つ福岡のご当地うどん
日本の「おいしさ」の地域差に迫る短期集中連載。
全5回にわたりお届けしている「うどん編」。
前回は、京都のうどんのおいしさが語られました。
今回は、実は「やわうどん」のトレンド発信地かもしれない、福岡のご当地うどんについてです。
うどん編③ 究極の「やわうどん」は、福岡にあった
うどんというのは元々、極めてローカル色の強い食べ物でした。地方ごとに様々なうどんがあり、地元の人々は基本的にそれを食べていたわけです。そんな中で乾麺の「稲庭うどん」は、高級日本料理店におけるうどんの定番として全国の割烹などに広がりました。しかしそれは少なくとも、庶民が日常的に食べるようなものではありませんでした。
日本全国で同じようなうどんが食べられ始めたのは、おそらく戦後、パック入りの「ゆでうどん」が最初なのではないでしょうか。これは「白玉うどん」と呼ばれることもあります。戦中戦後の食糧難の時代、小麦粉不足から米粉(白玉粉)が配合されたものがルーツだからだとも聞いたことがあります。今ではもちろん小麦粉が原料となり、地域やメーカーにより多少の差はあるのかもしれませんが、大体同様のものがスーパーなどで販売されています。
このゆでうどんは現在でも、生産量としてはうどんの中で一番多いそうですが、1990年代以降急激に普及した冷凍うどんは、概ねこのチルドゆでうどんの上位互換と認識されているのではないかと思います。つまり冷凍うどんは文句無しにおいしいうどんで、チルドゆでうどん(白玉うどん)は極めて安価で手軽なうどん、という立ち位置。そしてその冷凍うどんの中の圧倒的な主流が「冷凍讃岐うどん」ということになります。
外食分野では現在〔丸亀製麺〕を始めとする讃岐うどんチェーンが圧倒的な地位を保っています。つまり讃岐うどんは、元々はローカルフード、言うなれば地方豪族だった者が、初めて天下統一を成し遂げたような存在と言えるでしょう。うどん戦国時代を、ほぼ独走の形で勝ち抜いたのが讃岐うどんです。
記事が続きます
今から10年以上前の話ですが、知人でチルドゆでうどんを製造している製麺メーカーの社長さんが、こんなことをおっしゃっていました。
「最近では冷凍讃岐うどんに押されっぱなしだけど、実はその陰でチルドゆでうどんも随分改良が進んでおいしくなってるんだよね」
その話を聞いた時、僕には思い当たる節がありました。確かにおいしくなっている実感があったのです。前々回、初めて食べた冷凍讃岐うどんは、麺そのものに香りがあっておいしいのに驚いた、という話を書きました。それと同種の風味を、チルドゆでうどんにも感じ始めていたのです。更に最近では、かつてなかったコシのようなものも感じます。もちろんそれは讃岐うどんのようなはっきりとした強靭なコシともまた違いますが、変化してきているのは確かでしょう。
記事が続きます
つい先日、ある料理家さんとお話ししている時、まさにそのことが話題になりました。関西出身であるその料理家さんは、こんなことをおっしゃっていました。
「最近のチルドゆでうどんは、煮ても煮てもなかなか柔らかくならないのよね。コシのないふわふわしたうどんが食べたくて買ってるのに、なんだか納得いかない」
これもまた、僕は完全に同意でした。鍋の締めとしてあえてゆでうどんを買ってきて、ふわふわした優しい口当たりを期待していたのに、それがなかなか柔らかくなってくれないということが、ある時期から急に増えた実感があります。
つまり、ゆでうどんも進化しており、その進化は基本的に讃岐うどんを追いかけるような形で進行しているのではないか、というのが僕の仮説です。そういう意味で、讃岐うどんはこんな形でも全国支配を盤石なものにせんとしている。そしてそれは確かに進化なのかもしれないけれど、その料理家さんや僕のように、それを素直に歓迎できないレジスタンスもまた存在する、ということです。讃岐うどんの天下統一が進む陰で、実はうどん界に再び群雄割拠の時代が到来しつつあるのではないか、というのが僕の(いささかの希望的観測も含む)現状認識です。
記事が続きます