2024.10.21
モラハラに気づいたら?【逃げる技術!第25回】大事なのは意思・仲間・知恵…それと?
イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)
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あなたの自己決定は、まだ間に合う
この連載も、残すところあと1回となりました。これまでのまとめとして、DVやモラハラから逃げるために必要なもの・ことをおさらいしたいと思います。
前回ご紹介した、50代の息子から虐待といってもよい扱いを受けていた90代の女性は、昭和一桁生まれ。太平洋戦争中に小学生時代を過ごしています。
彼女にとっては、幼少期からずっと、父なり兄なり夫なりの「男性の命令を聞いて生きていく」「男性のケア労働を肩代わりする」「その上で金銭収入も得て家計に寄与する」ことがあたりまえだったのでしょう。
そのような扱いに対して不満を抱きながらも、表立って口にすることは許されず「女性は男性のサポートやケアをすべき存在」という価値観を自らのものとしてしまった。愚痴をこぼしながらも、そのルートからどうしても逃れられなかったように、わたしの目には映りました。
女性に対してそのことを愚痴ることはあっても、面と向かって自分を使役する男性にその不満をぶつけたことは、彼女の人生にはなかったのではないか、と思うのです。
歴史学者の加藤陽子さんの「老いた義祖母や母に向かって『自分で人生を選んでいいんだよ』といってみたところで、もう無理なんですよね。自己決定権の行使には賞味期限がある。義祖母や母は間に合わなかった」という言葉を前回引きましたが、残念ながら、この90代の彼女は、間に合わなかったのかもしれません。
でも、いま、この文章を読んでいるあなたは大丈夫です。
では、「逃げたい」と思う場所や人間関係に気づいてしまったら、どうすればいいでしょう。
逃げる第一歩は「意思を示す」「仲間を探す」「知恵をつける」
家族、会社や学校、友人などの人間関係でなんだかモヤモヤと心にひっかかっていることがあれば、「嫌です」「ハラスメントです」「それをいわれると傷つきます」といえるようになるといいのですが、難しければ無言ですっと離れてもいいでしょう。その際に「空気が読めない」「空気を悪くした」などといわれても気にしなくてよいです。
もし、そのことで「なんだ、冗談の通じないやつだな」といわれたら「その冗談、つまらないです」といってよいと思います。まずこれが「意思を示す」です。ハラスメントの加害者は、しばしば「被害者の感じ方に問題があるのだ」と主張しますが、この誤誘導にはれっきとした名前がついています。
相手をいじめている張本人が、あたかも被害者の感じ方や知覚に問題があるかのように誘導して錯覚させることを「ガスライティング」といいます。映画『ガスライト(ガス燈)』から生まれた言葉で、モラハラ・パワハラ加害者の常套手段です。
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友人、親族、弁護士、自治体、警察など相談先はたくさんある
それから、同僚や、会社や自治体のハラスメント相談室や、家族や友人などに、その出来事を話してみましょう。カウンセリングや電話相談、チャット相談もよいでしょう。わかってくれる人が見つかると、「やっぱり、わたしが悪かったわけじゃない」「相手が変だった」「あの場がおかしかった」と心が強くなりますし、少し回復できます。
経済的にギリギリまで追い詰められている、精神科に通うことが必要だというレベルであれば、場合によっては弁護士に相談することも必要かもしれません。
肉体的な危険を感じるときには警察に相談しましょう。一度で正面からとりあってもらえるかは担当者次第のところもあるのですが、相談したという実績が残ることが重要です。
これが、「仲間を探す」です。あちこちに相談してみることで、共感してくれる人、あなたの置かれた状況をわかってくれる人が見つかるでしょう。途中でがっかりすることもあるでしょうが、めげないでください。きっとよい出会いもあります。
相談できる相手を複数見つけて、分散して頼りましょう。
また、ハラスメントやいじめから逃げ出すというのは一大事業です。
誰かひとりだけに頼り切ると、共倒れしてしまうリスクもあります。
ですから、できればいろんな人に話してみてください。幸い、いまはLINEなどのSNSのおかげで昔の知り合いにパッと連絡を取ることのハードルも下がっています。
わたしは家出を決める前に、20人ほどの知人・友人に順にメッセージを送って、共感的にコミットメントしてくれる人たち(もちろん、話が重たすぎますし、関わりたくないとか忙しいとか向こうにも事情があるでしょうし、レスがつかない人もいました)に分散させてずっと頼らせてもらっています(なにかあったら愚痴を聞いてもらうとか)。
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