よみタイ

庭の落ち葉集めと編み物熱

 そんなときに『働くセーター』という本を買った。着用しているのもモデルではなく一般の働く人々で、みんなトップダウンで編まれた、シンプルなメリヤス編みのセーター、カーディガン、ベストを着ている。メリヤス編み好きの私としては、願ってもない内容だった。こういう本はありそうでなかったような気がする。技術を駆使した素晴らしい編み地のニットを見るのも目の保養になるが、私はやっぱり毎日、生活のなかで着るものを編みたい。
 作者のなおさんのイベントで販売された本『a sweater.』も素晴らしかった。働くセーターを着た、その人の原寸大の手の写真、10の質問の回答が載っている。気取った風に写っている、モデルが着た写真の何倍も素敵だ。何度見ても飽きることがなく、手に入れてずいぶん経つが、仕事が終わった後に、毛糸のパンツの編みかけを傍らに置き、『働くセーター』と『a sweater.』を見るのが楽しみになっている。幸いまだまだ編み物に対する集中力は途切れていない。本に掲載されている毛糸は買い揃えたので、セーター、ベストが着られる時期までに、一枚は編みたい。
 以前は編み物をすると目が疲れるなあと感じていたのだが、スマホの画面を見ているのに比べれば噓のように楽だ。そしてパソコンやテレビを観ているよりも楽になった。軽い乱視があるので、特に棒針は編むのが辛かったのだけれど、今はそういうこともなくなった。私の目が鈍感になったのかもしれない。パソコンもテレビもスマホも、向こうから光を発していて、それを私の目が受け止めるわけだが、編み物の場合は毛糸からも編み針からも何も光を発してこないからだろう。
 私が編み物をやめた頃よりも、購入できる海外の毛糸の種類が増えたのにも驚いた。個人経営の店で輸入しているらしい、まったく知らなかった毛糸も買えるようになっている。羊を傷つけないで毛を刈る、ノンミュールジング毛糸も増えている。目新しい毛糸はだいたい売りきれているので、編み物好きの人たちに人気なのだろう。編み物人口が増えるのは喜ばしいことである。私も編んでいない毛糸が山にならないように、せっせと編まなくてはならない。
 編み物をしながらふと窓の外を見ると、ついこの間まで、枝に枯れ葉がついている状態だったのに、テラスのマンサクの木には黄色い花が咲いていた。そしてその奥には借景だが、紅梅がきれいに咲いている。人間の暮らしをしている気持ちになる、今日この頃である。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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