よみタイ

庭の落ち葉集めと編み物熱

 毛糸のパンツで勢いがつき、編み物熱は一気に元に戻った。なぜだかわからないが、集中力も一気に戻ってきた。昔、祖母が煮る豆をひと粒ひと粒丁寧により分けているのを見て、(彼女は残された時間が少ないのに、どうして時間をかけてやっているのだろうか)
 と首をかしげたが、私もその域に達してきたのかもしれない。時間がある若いときは、面倒くさくて雑にやっていたことを、残り時間が少なくなっているのに、としを重ねると丁寧にするようになるのは不思議である。
 私が編み物を中断して、情報も遮断していた間、編み物の世界は進歩していた。やめる直前に編んだセーターは、襟ぐりから裾に向かって編み下げていく、トップダウンと呼ばれる編み方のセーターだった。裾から襟ぐりに向かって編み上げる、ボトムアップ方式でしか編んだことがなかったので本を買い、まずは掲載されていた指定糸で編んでみたのだった。トップダウンは、襟ぐりから編み下げるので、途中で毛糸が足りなくなったときに、着丈や袖丈を短くするのが簡単なのがいい。編み物をしていると、残り糸がたくさん出たり、編む予定がないのに糸を気に入って買ったりなどして、一着分はありそうだけど、ちょっと足りないかも、と微妙な感じになる場合がある。その際にこの編み方だと、毛糸の量の調整ができるので便利なのだ。トップダウン方式で他のセーターも編んでみようと考えているうちに、集中力がなくなってやめていたのだった。
 もうひとつ変わったことは、英文スタイルの、文章による編み方が増えたことだ。私は小学生の頃から、丁寧な寸法が記載された製図と、日本特有の記号で表された模様編み図が掲載されている本を見て編んできたので、文章だけで説明される外国方式の編み方にはとまどっていた。外国雑誌で編みたいものがあると、編み目をじっと見て、こんな柄ではないかと、自分で模様編み図に書き起こして、それを見ながら編んでいた。
 英文での編み方を丁寧に翻訳し、説明している本も出てきた。英語での編み方の略語、編み方も丁寧に記載されていて、洋書の編み物本で編むのがとても楽になる。私は両方の図を見れば、ひと目で全体像がわかる日本式のほうがずっと楽なのだが、模様編み図に書いてある記号をいちいち覚えるのが面倒くさいので、英文スタイルのほうがいいという人もいる。また図を見て編まなくてはならないので、手間もかかるという。私はそれを当たり前にやってきたので、そういうところはわからないのだが、ゲージさえ合えば、文章を読みながら編めるほうが、楽と感じる人がいるのもわかる。どちらの方法でも、自分が気に入ったものが編めればいいのだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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