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米倉強太 阿部寛、坂本龍一…映像への思いを強くしたレジェンドとの出会い【実録・メンズノンノモデル 第2回 後編】

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映画『キャンドルスティック』で刻まれた映画監督としての第一歩

米倉 プロデューサーの小椋(悟)さんからオファーをいただいたのが2019年。嬉しい反面、一気に焦りが募りました。『今の(クライアント仕事中心の)僕が、このまま映画を撮ってはいけない』と…。そこで、妻に相談し、それまで貯めたお金を使って、映画がクランクインする2024年の5月までの間に、まずは一本自主制作で映画を作ろうと。ーー撮っている間はほとんど収入がなかったので、もちろん貯金は底をつき、本当にやばかったんですけど…(笑)、それでも、自分の中では『このプロセスを通らずしてクランクインは迎えられない』と思ったんです。サポートしてくれた妻には、本当に頭が上がりません。

 それまで生活を支えていたファッションや広告映像の仕事を中断し、すべてをリセットしてまで臨んだ初監督映画。奇しくもその主演を務めたのは阿部寛。そう、言わずとしれた大俳優であり、かつてはメンズノンノ専属のモデルとして創刊号の表紙を飾った、米倉の大先輩でもある。

米倉 阿部さんとは、最初の顔合わせの際に少しメンズノンノの話をしました。でもそれ以降はほとんどそれには触れず、メンズノンノモデル出身者としてではなく、プロの映像制作者として接してくれました。制作側の提案もすべて受け入れてくださいましたし、色眼鏡なしに僕のことを“映画を撮る側”として尊重してくださっていることがひしひしと伝わってきました。すごくありがたかったです。

『キャンドルスティック』予告編 

 同作品は日本、台湾、イラン、ハワイを舞台に、阿部寛演じる天才ハッカーが大金を得るべくAIとの騙し合いに挑むマネーサスペンス。国内のみならず台湾とイランでも撮影が行われたのだが、各国のクルーと連携しながらの撮影は困難を極めた。

米倉 とくにイランでのパートは大変でした。僕らが行く予定の1週間前に、(国際情勢により)渡航禁止になってしまったので、急遽オンラインでやりとりしながら撮影することになったのですが、イランはネット環境も不安定でなかなかスムーズにいきませんでした。やむを得ず現地のプロデューサーとカメラマンにある程度任せる形にしたのですが、撮ってもらったものがこちらのイメージとまったく違うことも多くて…。絵コンテを書き直しては撮影しなおしてもらう、ということを何度も繰り返しました。この時の、文化も価値観も違う人たちとの仕事は本当に勉強になりました。

映画『キャンドルスティック』の撮影現場にて、初めて長編映画のタクトをふるう米倉
映画『キャンドルスティック』の撮影現場にて、初めて長編映画のタクトをふるう米倉

モデル時代に見たあの風景を、いつか映画にしたい

 初監督作品を経て、「以前よりもビジョンが明確になりつつある」という米倉。一旦離れた広告映像の仕事も再開しつつ、今後は自ら動いて積極的に映画を撮っていきたいという欲求にも駆られているという。

米倉 今回、『キャンドルスティック』で監督をさせていただいてわかったことは、『映画は本数をこなしてなんぼ』ということ。少なくとも1年に1本、40歳になる頃に10本は世の中に出していたい。この目標を実現するために、今はあるアーティストのドキュメンタリー作品にも挑戦しています。以前、是枝裕和さんが、武蔵野美術大学での片山正通さんとの対談で『ドキュメンタリーは被写体の心をキャッチするのにいちばんいい経験なんだ』とおっしゃっていたことが、今はすごく理解できます。本当にやりたいことの答えはまだ見つかっていませんし、映像作りにおける“自分らしさ”も今はまだおぼろげですが、結局のところ、撮り続けないことにはそれらも見えてこないんだろうなと思っています。ひとつ目標を挙げるとするなら、いつか栁さん、坂口さんを撮りたいですね。実現できたら、お互いどういう立ち位置で撮影に臨むんだろうかと、想像するだけでワクワクします。

 実は米倉、メンズノンノモデル時代の旅企画で見た、ある風景が今でもずっと頭の片隅に残っているのだという。

米倉 当時専属モデルだった藤井望央くん、担当編集の方と鈍行で博多まで行った取材企画が、ファッションページ以外ではいちばん心に残っています。その時初めて目の当たりにした瀬戸内海が、自分の中で意外なほど衝撃だったんです。たしか広島を過ぎたあたりで、夕方の港町を地元の高校生たちが歩いていた情景が忘れられなくて。瀬戸内海特有の柔らかい光に、喰らっちゃったんです。その時は、その感情をどうアウトプットしていいかわからなかったのですが、映像の仕事をするようになってからは『いつかあの場所で撮りたい』とずっと思い続けているんです。それが、僕にとって、まだ開けられていない引き出しになるのかもしれません。

 この先、米倉が10代の頃に見た瀬戸内海の風景を題材に映画を撮ることがあったとして、その主演をメンズノンノモデル時代の仲間に務めてもらいたいと心のどこかで考えているのかもしれない。その答え合わせができる日は、そう遠くないように思う。

PROFILE
1994年4月27日生まれ。栃木県出身。2012年に第27回オーディションを経てメンズノンノモデルになる。2013年に多摩美術大学の映像学科に進学し、2014年ファッションブランドJULIUSのパリコレクションバックステージ映像を制作。その後GUCCIやHUGO BOSSなどのショートフィルムを撮影し、2017年には坂本龍一氏から楽曲提供を受けてパリにて初の映像展を開催。2025年には藤井道人氏率いる映像集団「BABEL LABEL」に加入し、阿部寛主演の映画『キャンドルスティック』にて長編映画監督デビューを果たす。

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次回、連載第3回は2/6(金)公開予定です

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徳原海

大阪府出身。メンズノンノ編集部でのアルバイト勤務を経て2006年からフリーランスの編集者として活動。メンズノンノ、UOMOなどの雑誌をはじめ、現在は様々なファッションブランドやスポーツブランドの広告ビジュアル制作なども手がける。著書に「パラアスリート谷真海 切り拓くチカラ」(集英社)、写真と文で綴った欧州フットボール紀行「the Other Side」(ブートレグ出版)など。

Instagram :@kai.tokuhara

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