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酒井順子「言葉のあとさき」

「ウケ」たくて。

 ちなみに森氏は、昭和一二年(一九三七)生まれ。「産む機械」発言で一気にその名が広まった柳沢伯夫氏(昭和一〇年・一九三五年生)、数々の差別発言でおなじみの石原慎太郎氏(昭和七・一九三二年生)のように、女性についての失言で名高い人々の顔ぶれを見ると、その辺りに生まれた層が目立つことは確かです。
「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい」
 の太田誠一氏は、昭和二〇年(一九四五)生まれ。
「子供を産まないと、人様のお金で老人ホームに行くことになる」(大意)
 の加藤寛治氏は、昭和二一年(一九四六)生まれということで、アラウンド団塊世代もまた失言ポロリが目につきますが、
「だからこの世代は……」
 などと言うと、やはり世代差別になる。そしてもちろん、
「この手の発言をするのって、自民党系の人ばかりですよね」
 と言うと、思想差別になりましょう。保守的思想を持つ人の中にも、男と女が同じ人間だと知っている人はいますし、革新的思想を持つ人の中にも差別的な考えを持つ人はいるのです。
 政治家の失言事件を見る度に私は、「自分も気をつけなくては」と、自戒の念を抱くのでした。物書き業もまた、政治家やお笑い芸人と同様に、言葉によって「ウケ」やら「受け」やらを取ることを日々、目論む仕事。私も「ウケてやろう」というスケベ心から、ギリギリの線を狙いがち。
 しかし文章の世界には、そんなスケベ心の監視役が存在します。編集者や校正者は、言葉や事実関係の間違いを指摘する他にも、差別的な内容については、
「この文章はまずい」
 とチェックしてくださるのです。
 政治家も、国会答弁の原稿などは他人の手が多々入りましょうが、やはり会合などでのスピーチなどの機会が危い。スピーチだからこそ、つい目の前にいる人々にウケたくなって、自制が利かなくなってしまうのではないか。
 話している時にウケを狙うというのは、実に危険な行為です。文章であれば世に出る前に書き直すことができますが、いったん口から出た言葉は、いくら「撤回します」と言っても、消えることはない。思い返せば自分も、「ウケたい」と思って口にした言葉が正直すぎたり下品すぎたりして、舌禍事件となったことが多々ありましたっけ。
 ウケを取ることができる人の地位が高まり、ウケることの快感が強まっているからこそ、人はウケを得るべくチャレンジするようになりました。が、失敗の代償は、取り返しがつかないほどに大きいのです。
 舌禍事件も起こさず、常に面白いことを言うことができる芸人さんが人気者となるのは、そう考えると当然のこと。芸人さん達はどれほどカジュアルな雰囲気をまとっていてもやはり、根は玄人。素人は下手にウケなど狙おうとせず、
「ウケる〜」
 と、いい感じの合いの手を入れることに専念した方がいいのかもね、と思います。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『次の人、どうぞ!』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『処女の道程』『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』など多数。

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