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酒井順子「言葉のあとさき」

「個人的な意見」という免罪符

 そんな我々は、「言い切る人」に対する免疫がないために、上手に言い切る人がたまに登場するとすぐについていきがち、という性質を持っているのでした。 二〇〇一年に首相となった小泉純一郎氏は、「自民党をぶっ壊す」とか「郵政民営化」といった印象的な言葉を多用し、「ワンフレーズ・ポリティクス」と言われました。ワンフレーズに意見が収まるということは、曖昧化表現を使用していないということ。国民は、ワンフレーズの内容にというよりも、「言い切っている」ということ自体にグッときたのです。
 もちろん、ただ言い切れば良いと言うわけではなく、言う人の資質や言い切る内容は重要です。しかし、
「自民党を、根本的に変えなくてはならない時期が近くなってきているのではないか。私はそのように考えずにはいられないのです」
 ではなく、
「自民党をぶっ壊す」
 と言うセンスが、小泉人気を爆発させた。「こんなにはっきりと言い切ることができるということは、自分の意見に自信を持っているのだろう。すなわちこの人が言っていることは、正しいのだ」という思考を、人々にもたらしたのです。
 つまり我々は、言い切ることが嫌いなわけではありません。自分が言い切ることは怖いけれど、上手に言い切ってくれる誰かに、うっとりと手を振りたいのです。
 コロナ時代となった今、我々は断言してくれる人の登場を、いつになく強く待っています。 二〇二〇年の都知事選挙では、「コロナは風邪です」というワンフレーズで選挙戦に挑んだ候補者がいましたが、そのフレーズはあまりに説得力がなかったため、人心に響かなかった。しかし、魅力的なフレーズを魅力的な人が言い切ったなら、人々は簡単にそちらになびいていくことでしょう。
 上手な言い切り表現に人心が一気に掌握された時、それが吉と出るか凶と出るか。‥‥と考えると恐ろしくて、実は日本の政治家がむにゃむにゃした言い方しかしないでくれている方がのかも、とも思うのでした。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『次の人、どうぞ!』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『処女の道程』『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』など多数。

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