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酒井順子「言葉のあとさき」

「個人的な意見」という免罪符

 だからこそコロナ時代となっても、その物言いをおいそれと変えることはできないのでしょう。コロナについても、特に初期段階においては、刺激的な見出しを売り物とする週刊誌等のメディア以外では、
「危ない……かもしれませんから、なるべく注意した方がいい……ような気がしますよ」
 的なムードで語られました。普段の生活においては、「言い切らない」ことが人間関係をスムーズに回すための潤滑油になりますが、非常事態下での「言い切らない」という習慣は、人々を迷走させたのです。
「言い切らない」という文化の源は、京都なのだと私は思います。京都の人と話していると、「何と自分は、直截的な物言いをする人間なのだろう」と思うことがよくあるのでした。
 思ったことをストレートに口にしたり、自身が持つ知識を「どうだ」と開陳したりするのは、私のような関東の者がすること。知識のアピールや知ったかぶりは、「枕草子」「徒然草」にも、田舎者の証として記された行為であり、みやこ人にとっては最も忌避すべきこと。
 しかし千年の時が経っても、アズマの人間は「どうだ」をやめることができません。真意が後からじわじわと浸透してくるような京都人の会話術に接すると、自分のアズマエビスっぷりにしばしば赤面するのですが、とはいえそのような会話術を後から身につけることは不可能。
「アズマエビスですんで、すみません」
 という態度を通すしかない、という結論に私は達しております。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『次の人、どうぞ!』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『処女の道程』『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』など多数。

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