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酒井順子「言葉のあとさき」

「卒業」からの卒業

 アイドルグループのあり方における男女差がこのように大きいことから見えてくるのは、男と女に求められているものの違いです。女性アイドルグループが、ジャニーズのグループのように、同じメンバーのまま40代、50代になっても続けていくということは、考えづらい。女性の場合は、どうしても若さが大きなセールスポイントなのであり、20代後半になると「そろそろ卒業?」というムードに。卒業したならば、彼女達の前には結婚・出産という新たな目標も、待っています。
 対してジャニーズアイドルのファンは、若さを愛好しているという意識は低めです。だからこそジャニーズのグループの活動期間はどんどん長くなってアイドルは高齢化し、彼等はいつまでも結婚することができないことになる。
 ジャニーズアイドルの場合は、メンバーが辞める時も、「卒業」という言葉は使用しません。新陳代謝によるグループの永続性を求めていないジャニーズアイドルの場合、メンバーが辞めることは、すなわち「脱退」。アイドルにおける「卒業」は、新しい誰かが入ってくることを前提とした上で使用される言葉なのです。
 「卒業」は、アイドルがグループを辞めるにあたってトラブルがなかったという印象を、ファンに与えます。首を切られるわけでもなければ、彼女がグループのことを嫌いになったわけでもない。学生が学校を卒業するのと同様に、時が満ちたから違う世界へと旅立っていくだけなのです、という印象が、裏にある真実はどうあれ「卒業」という言葉からは伝わります。
 アイドル用語の「卒業」がこのような印象をもたらすからこそ、世間でも「卒業」は、便利に使用されるようになりました。が、その使われ方にもやもやした気持ちを抱く人は多いようです。実質「クビ」と言われているのに「卒業」などと甘やかな言葉で表現されることは、確かに気持ちが悪いもの。
 欅坂46の平手友梨奈さんは、そんな中でグループからの「脱退」を発表しました。同時期に辞める他のメンバーが「卒業」であるのに対して、平手さんは「脱退」。その言葉をあえて彼女が選択したのだと考えれば、「卒業」に対する違和感を彼女が覚えていたこと、そして終わり方を無理に丸めることなく、ザラザラのままにしておきたいという意志が伝わるのです。
 しかし我々は「卒業」のみならず、何事においても「終わり」を表現しようとする時、シビアな現実を覆い隠すための言い換えを、行わずにはいられないのです。たとえば、人生の終わりである、「死」。実際に人が死んだ時に、
「○○さんが死にました」
 と言うことは、あまりありません。「亡くなった」「他界した」「天に召された」「旅立った」などと別の表現を使用するのが常であり、「死」というそのものズバリの言い方は、忌み言葉のようになっている。
 日常生活で「死」が使用されるのは、本来の死とは関係の無い場面において、なのでした。人を罵倒する時や性行為の時など、何か極端な感情がほとばしる場面において「死ね」「死んじゃう」「死ぬほど」といった表現は多用される。
 永遠などというものは無いのだ、ということを理解していながらも、やはり人はどこかで永遠を求めています。だからこそ、人は必ず死ぬとわかっていても、死を悲しむ。人間は、絶対に負ける戦とわかっていても、永遠への挑戦をせずにはいられない生き物なのであり、だからこそあらゆる「終わり」を直裁的に表現することを避けようとするのでしょう。
 たとえば雑誌の世界において、その雑誌の命が終わることを「廃刊」と言いますが、廃刊に際して、雑誌側が「廃刊します」と言うことはなく、多くの場合は「休刊」と表現します。完全に無くしてしまうわけではない。もしかしたらこの先、復活することもある‥‥かも‥‥という雰囲気を、漂わせておくのです。
 また単行本の場合は、もうこれ以上は刷りませんよ、版も廃棄しちゃいますよ、ということを「絶版」と言います。が、出版社のHPなど見てみると、「絶版」とは記されず、「品切れ中」などと表記されている。少し待てばまた補充されるかのような書き方ではありますが、休刊とされた雑誌が復活することがほぼ無いように、品切れ中の本が補充されることもまた期待できないのです。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『次の人、どうぞ!』『男尊女子』『家族終了』など多数。

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