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酒井順子「言葉のあとさき」
時代が変われば言葉も変わる。
そして、言葉の影に必ずついてくるのはその時代の空気。
かつて当然のように使われていた言葉が古語となり、流行語や略語が定着することも。
言葉の変遷を辿れば、日本人の意識の変遷もおのずと見えてくる。
近代史、古文に精通する酒井順子氏の変化球的日本語分析。

Jの盛衰

言葉のあとさき 第1回

 近所の区立小学校では毎年、6年生向けに職業意識を涵養かんようする授業を行っています。子供達が興味を持っている職業に就いている大人を集め、子供達と仕事についての話をする、という企画なのです。
 少数ながらも物書きという仕事に興味を持つという殊勝なお子さんがいるらしく、近所の奥さんからスカウトされて、その授業に毎年参加している私。当日は、近所の駅の駅長さん、近所の警察署の警察官、パン屋さんに美容師さん‥‥と、ご近所さんやその小学校の卒業生から色々な職業につく人達がかき集められます。芸能プロダクションの社長や、プロ野球選手(ヤクルトスワローズ)、Jリーガー(FC東京)といった華やかなメンバーも来るので、子供達にとっては楽しい時間かと思われる。
 授業当日は、体育館に占い師のブースのようなものを作って我々講師が座り、子供達と話すのですが、
「エッセイって何ですか」
 とか、
「生活していけるくらいは儲かるんですか?」
 など色々と聞かれて、こちらも楽しいこの時間。来てくれた子供達には、サービスとして「上手な作文の書き方」を教えるようにしています。
 もちろん、真剣に物書きになりたいと思っている子は、ごく稀なのでしょう。私のところにやってくるのは、「ちょっと読書好き」くらいの子が多く、
「で、将来は何になりたいの?」
 と聞いてみると、
「お医者さん」
 とか、
「パティシエ」
 とか、様々なのです。
 そんな中、
「ユーチューバーになりたい」
 という子が数年前に登場した時、私は驚いたものでした。今でこそユーチューバーは、子供達が憧れる職業として有名になっていますが、当時は「あれって職業なのか?」という意識が私の中にあったから。
 IT系の職業に就く人としてはゲームのプログラマーがやってくるくらいで、その授業には、未だユーチューバーは講師として登場していません。もしかすると、先生達の教育的配慮によって、ユーチューバーのようにまだ評価が定まらない新興職業の人は、除外されているのかも。
 ユーチューバーやらインフルエンサーやらは、ここ数年で注目されるようになった職業というか、肩書きです。最初は意味がわからなかったものの、自分も誰かのSNSを見ていて、そこに出ていた何かをつい買ったりすることがあり、
「これがインフルエンス!」
 と、驚いたものでした。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『次の人、どうぞ!』『男尊女子』『家族終了』など多数。

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