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出世なんてしたくなかった!?【第4回 女性管理職を待ち受ける修羅】

一人旅、一人暮らし、ソロ活。縛られず、気兼ねなく過ごせる一人の時間は自由気ままで、得難い魅力があります。
一方で、孤独死、孤食、ぼっちなど、「一人」に対して、否定的なイメージがつきまとうことも否めません。
家族関係も多様となり、ネットやオンラインで会わずにつながる関係性も行きわたった昨今、一人=孤独というわけではないにもかかわらず…。
隣に誰かがいても、たとえ大人数に囲まれていても、孤独は忍び寄ってくるもの。
『負け犬の遠吠え』『家族終了』『男尊女子』『消費される階級』など、数多くの著書で時代を掘り下げ続ける酒井順子さんが、「現代人の孤独」を考察する新連載です。

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え・たんふるたん
え・たんふるたん

 ある大手企業の役員を務める女性と話していた時のこと。
「うちの会社の男性役員は全員、女のことが嫌いだっていうことが、役員になってからよーくわかった」
 と、彼女が言っていました。
 とはいえ男性役員達は、女性全般が嫌いというわけではないようです。彼女のように、男性に伍して働くような優秀な女性のことが嫌い、ということらしい。
 その話を聞いて私は、「やはり……」と思ったことでした。それというのも私は、この国においては、性愛や情愛といったプライベートな部分で男女が仲良くすることは可能でも、オフィシャルな部分で男女が理解し合い、協力することはなかなか難しいような気がしていたから。仕事の面で女性の地位は少しずつ上がってきてはいますが、上がったら上がったで、やはり修羅が待っていたのか、と思ったのです。
 私が身を置く物書き業界は、その昔から比較的、女性が活躍しやすい分野でした。明治になって、日本の近代文学の歴史がスタートしてすぐの時点から、男性よりも数は少ないものの、樋口一葉など女性作家が世に出ていたのです。
 しかしそれは、物書きが一人でできる仕事だからでしょう。一人で努力し、一人で書いた作品は、老若男女を問わず、同じ土俵で評価されます。女性に家事や子育ての負担が重くのしかかっても、どうにかやりくりをして書くことも可能。同じように、画家など美術・芸術にかかわる世界においても、古くから女性にも活躍の場が与えられていました。
 対して組織の中で働く女性は、同じようにはいきません。企業や各種団体などの組織は、昔から男性達によって運営されてきたのであり、そこに女性が入り込むのは至難の業。組織に属したとしても、男性の理論で運営されている中で出世したり実権を握ったりすることは考えられませんでした。

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日本の女性は良妻賢母になるべく育てられ…

 明治期に教育制度が整えられた時から、日本の女性は良妻賢母になるべく育てられてきました。そもそも教育制度を考えた人達が男性ばかりだったのであり、
「女はこう生きてほしい」
 という男性の考え方が、女性の教育方針には色濃くあらわれることに。日本女性は、夫が存分に外で仕事ができるよう、家庭を守って子を産み育てる役割を担うことになり、仕事を持つ職業婦人は、「外で仕事をしなくては食べていくことができない可哀想な女性」として蔑まれたのです。
 第二次世界大戦が終わって民主主義の世の中となっても、「男が外で働いてお金を稼ぎ、女性は家の中のことをする」という社会のシステムは継続しました。企業等の組織も、メンズクラブとして機能し続けます。
 企業に、女性が全くいなかったわけではありません。戦前から、タイピストなど末端の仕事を行う女性は存在したし、戦後は事務仕事を担う「BG」(後に「OL」と言われることに)も増えていきます。
 その手の女性は、結婚したら会社を辞めて家庭に入るのが通例でした。若い女性社員は「職場の花」と言われ、花はたいてい独身の男性社員に摘まれて、会社を去っていったのです。
 女性が仕事をするのは結婚まで、という感覚があった時代にキャリア志向をもって大学に通っていた女性に話を聞いたところ、
「あの頃は、四年制大学卒の女子をまともに働かせてくれる企業は無かったから、ちゃんと働きたい女性は、資格を取ったり、研究者になったりするしかなかった」
 とのこと。彼女も司法試験を受けて弁護士となって、ずっと働き続けてきたのです。
 しかし一九八六年に男女雇用機会均等法が施行された頃から、事情は変わってきました。男性と同じように働く女性が、わずかながら登場することとなります。
 女性をいきなり「男なみ」に働かせたことによって、総合職として入った女性の多くがドロップアウトしてしまった、といった話もありますが、少しずつとはいえ、働く女性は増えていきました。女性が働きやすい制度や環境も、じわじわと整っていくことに。

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新刊紹介

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』『松本清張の女たち』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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