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「この結婚は失敗だった」…自慢の妻に幻滅したエリート夫が初めて離婚を意識した理由(第10話 夫:康介)

案内された瑠璃子の部屋は、想像どおり広くはなかった。

玄関から細い廊下を進むとカウンターキッチンとリビングがあり、その脇の寝室にダブルベッドが置かれている。なんとなく見てはいけない気がしてすぐに視線を逸らしたが、光沢感のあるシーツで綺麗にメイキングされていた。

「座っててくださいね」

そう声をかけられたものの、スペースの関係か、あまり家で食事をしないのか、ダイニングセットがない。ぐるりと部屋を見渡し、リビングのソファに腰掛けた。

「知ってました? 最近メキシコワインが熱いらしいの。ナチュラルワインをいただいたんですけど、これがなかなか美味しくて」

ワインを運んできた瑠璃子ははしゃぎながら、ガラステーブルにつまみのチーズやドライフルーツ、クラッカーを手際良く並べていく。

開襟シャツにタイトスカートという格好のまま、小動物のようにせわしなく動きまわる瑠璃子を眺めていると、ふいに遠い昔の麻美が思い出された。

弁護士事務所で人気ナンバーワンのアシスタントだった麻美。正統派の美人であるのに愛嬌もあって、康介はもちろん、他の弁護士たちにとっても憧れのまとであり癒しの存在だった。

彼女に笑顔を向けられると、大袈裟ではなくたちまち疲れが吹き飛んだものだ。

しかしながら若かりし頃の彼女の愛らしい姿は、深夜に帰宅した挙句、挑発的な薄ら笑いを浮かべる妻へとすり替わった――あれは、もはや康介の知る麻美ではない。

――『奥さんは、先生が思っているような女性ではないと思います』

そういえば、瑠璃子は先ほどこうも言っていた。康介は思わず大きく頷く。彼女の言う通り、俺は結婚する相手を間違えたのではないだろうか……?

「それじゃあ、乾杯」

触れ合うほど近くに腰を下ろした瑠璃子が、上機嫌でグラスを手渡してきた。「乾杯」と康介も微笑み返し、不愉快な記憶を消し去るべくワインを喉に流し込んだ。

「ダメだ。酔ったみたいだ」

情けない話だが、瑠璃子に勧められるままグラスを3杯空けたところで猛烈な眠気に襲われた。

相変わらずあれこれ仕事は振られるし、ここ最近は独立に向けて考えることも多く、さらには麻美とのいざこざもあって疲れが溜まっていたのだろう。

瑠璃子が「横になっていいですよ」と言ってくれたので、ソファに足をあげ、遠慮なく寝転がらせてもらうことにした。

――

その後、どのくらいの時間が経ったか定かではない。横になり瞼を閉じてからの記憶がなかった。

微かな気配を感じて目を開けると……なんと、至近距離に瑠璃子の顔があった。そして次の瞬間、康介の唇に柔らかな感触が広がった。

驚く間もなく、康介はほとんど条件反射で彼女を受け入れていた。痺れるような衝動が全身を貫く。そのまま欲情に任せて唇を吸うと、今度は瑠璃子の方から舌を絡めてきた。

躊躇う気持ちも罪悪感も、湧いてはこなかった。飲み過ぎたせいで、判断能力が低下していると思われた。下腹部に感じる彼女の重みと熱、何度も押しつけられる唇……全神経が瑠璃子に集中し、他のことは何も考えられない。

「……酔ってる?」

誤魔化すように言った康介の質問には答えず、瑠璃子は黙ったままシャツのボタンに手をかけた。

康介はその手を静かに掴み、瑠璃子の動きを止める。そして、今度は康介から唇を重ねると、ゆっくりと自らの手で彼女の服を剥いだ。

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
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Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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