2021.1.30
「ああ、つまんない」ー高収入の男を惚れさせ、念願の結婚ゴールを果たした美人妻の本音(第1話 妻:麻美)
「それに、すごく麻美さんのことを大事にしてるよね。先月のパーティーでも、ずっと麻美さんの肩を抱いてたじゃない?」
麻美たちの住む赤坂のマンションでは、管理会社の主催で季節ごとに住人たちを招くパーティーが開催される。
同じマンションの住人というのは、嗜好も経済力もだいたい似ていた。その中でさらに歳の近い既婚女たちが出会えば、性格も出自も容姿のレベルまで似ているから、仲良くならない理由はない。
そして女たちは、近所付き合いというより、まるで思春期の女子高生のような、やや親密すぎるコミュニティを築くようになったのだ。
「本当にお似合いの美男美女夫婦で、羨ましい!」
満たされた女というのは、勝者の余裕とでも言うのか、お互いを褒め合うのが大好きだ。
とびきり裕福な夫を捕まえただけでなく、可愛い子どもまで授かり、幸せの絶頂にいる女たち。子どもがいないのは自分だけ。不完全なメンバーを気遣ってその夫を褒めるのだろうか、と内心ゲンナリしながらも、麻美は微笑み続ける。
「ねぇ、麻美さんも、そろそろ子ども考えてるでしょ?」
「え……」
不意に核心的な質問を投げられ、一瞬、顔が引きつってしまった。
「うん、そう、ね……」
「ウチも大変だったから、欲しいなら早くした方がいいよ。検査だけでも受けると安心よ」
そう言って明るく笑う亜希は、一年弱の不妊治療を経て妊婦となっている。彼女は治療中も人工授精だの体外受精について大っぴらに語っていて、麻美は世間一般的な不妊の暗いイメージを亜希によって覆された。
「みんな一緒にママになれたら楽しいよねぇ」
ピンクだらけの部屋の中で、女たちは「ねー」と同意し合い、さらに場は盛り上がる。
――できるなら、とっくになってるわよ。
麻美は笑顔のまま奥歯を噛み締める。
この空間に我が子が加われば、それはもう非の打ちどころのない完璧な絵になることなんて、嫌というほど麻美がいちばん分かっているのだ。