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「デメリットしかない」ー妻の不妊治療提案をはね退けた夫の言い分(第2話 夫:康介)

あなたは「結婚」という制度に、疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップなど氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……出会いの機会が爆発的に増える一方、多くの夫婦が良好な関係の維持に苦戦しているのもまた事実。セックスレス、不妊、モラハラ、DV......問題は山積みで、それが令和時代の夫婦を取り巻く現実だ。 これは120年以上も変わらない今の結婚制度に限界を感じ始めたと夫と妻が、それぞれの視点で語るストーリー。 理想的な伴侶と恵まれた生活……「女の幸せ」は手に入れたものの、子どもがいないことに引け目と不満を抱いている麻美。そんな妻を夫・康介はどう見ているのかといえば――。 前話はこちら。連載一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

愛も尊敬もない……妻の態度が不満な夫

「今日も遅くなるから」

午前8時過ぎ。櫻井康介は、妻に軽く微笑んで家を出た。

ロビー階でエレベーターを降り、ホテル並に豪華な造りのエントランスを歩く。一際目立つ巨大な装花が赤いバラに変わっていた。豪華で、とてもいい。

最近は気張らないカジュアルがトレンドらしいが、康介はその良さが理解できない。見るからに贅沢、王道の美。そういうほうがわかりやすいし、自尊心が満たされるのに。

「おはようございます」

ふいに、背後から声をかけてきたのは麻美の“妻友”だった。

先月、麻美とともに参加したマンション内の交流パーティーに来ていた女性だ。もう随分お腹が大きいのに、体にピタリと沿うドレスを着ていたのを覚えている。確か妻は「亜希さん」と呼んでいた。

「おはようございます」

康介は姿勢を正し、よく通る声で挨拶を返した。口角をあげ爽やかに笑うことも忘れない。

ここは戸数の多いタワーマンションだが、コミュニティは想像以上に狭い。噂のたぐいは大げさでなく一瞬で広がる。妻の友人から高評価を得ておくことは、快適な生活のためにも重要なことだ。

ツンと冷えた空気に、首をすくめて歩きながら康介は思う。

エリート弁護士の肩書き、都心の豪華なマンション、美しくソツのない妻。上には上がいるとはいえ、自分は都会を生きる36歳の男として悪くないステージにいるはずだ。妻に裕福な暮らしをさせてやっているという自負もあった。

だからこそ、康介は納得できないでいる。近頃の麻美の態度のことだ。

本人はうまく取り繕っているつもりのようだし、康介もあえて指摘したりはしない。しかし近頃の妻からは夫に対する愛はもとより、尊敬すらも感じられない。

さっきだってそうだ。家を出る際、康介が視線を外す0.1秒前に彼女はあっさり笑顔を消していた。もはや笑うことすら惜しい、とでもいうように。

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山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

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