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まるでアニメの異世界に迷い込んだかのよう?緑の壁がそそり立つ、樽前山の「苔の回廊」【山の名&珍プレイス 第4回】

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狭まり、広がり、高く、低く、奥へ続いていく苔の回廊

 では、苔の回廊を歩いていこう。ここからは連続した写真を見ていただきたい。

両側の壁がまだ低い代わりに、中央部分は広い。自転車なら余裕で走れる幅だ
両側の壁がまだ低い代わりに、中央部分は広い。自転車なら余裕で走れる幅だ
両側の壁の高さも、中央部の横幅も、2m弱。「U」の字というよりは、「コ」の字を90度回転させて立てたような地形である
両側の壁の高さも、中央部の横幅も、2m弱。「U」の字というよりは、「コ」の字を90度回転させて立てたような地形である
中央が狭まり、両サイドが切り立っている。基本的には沢沿いの1本のルートなのに、迷路を歩いている気分だ
中央が狭まり、両サイドが切り立っている。基本的には沢沿いの1本のルートなのに、迷路を歩いている気分だ

 左右の岩壁はときに高く、ときに低くなり、中央の道のような場所もときに広く、ときに狭くなる。とはいえ、ある程度の傾向はあり、支笏湖付近の入り口は低く広く、中央部は高く狭く、最後には再び低く広くなる……というのが、だいたいの苔の回廊の雰囲気だと思ってほしい。

緑の回廊の中央部付近。それほど湿り気は感じなくても、苔の緑は濃い
緑の回廊の中央部付近。それほど湿り気は感じなくても、苔の緑は濃い
奥のほうには岩が崩落した場所も。だが歩くのに大きな支障はない
奥のほうには岩が崩落した場所も。だが歩くのに大きな支障はない
岩で完全に覆われているように見えるが、その隙間から難なく先へ進める。だがヘルメットをかぶれば、安全度は確実に高まる
岩で完全に覆われているように見えるが、その隙間から難なく先へ進める。だがヘルメットをかぶれば、安全度は確実に高まる

 それにしても、文字通りに「回廊」だ。回廊とはすなわち「折れ曲がって長い廊下」という意味で、苔の回廊は何度も何度も曲がり、折れながら、次第に標高を上げていく。

もっとも深い場所では、岩壁の高さが10mくらいになる。人の大きさと比べれば、そのスケールがわかるだろう
もっとも深い場所では、岩壁の高さが10mくらいになる。人の大きさと比べれば、そのスケールがわかるだろう

緑の回廊を抜けても、お楽しみはまだ続く

 支笏湖から3キロほどだろうか。回廊は次第に低く、幅も広くなって光が当たりやすくなり、地面が乾燥して苔が見られなくなっていく。すると、間もなく完全に開けて樽前山と風不死岳の間に広がる樹林帯に入り、その後は古い溶岩の上に広がる草原に足を踏み入れる。

再び広くなってきた火砕流が流れた跡。倒木の上に置かれた大小の石が、ここを通る登山者の多さを物語っている
再び広くなってきた火砕流が流れた跡。倒木の上に置かれた大小の石が、ここを通る登山者の多さを物語っている
溶岩でできている地面には背の高い木が少なく、樹林帯といえども見晴しはいい。奥に見えるのが樽前山だ
溶岩でできている地面には背の高い木が少なく、樹林帯といえども見晴しはいい。奥に見えるのが樽前山だ
樹林帯が切れると、樽前山の外輪山が目に飛び込んでくる
樹林帯が切れると、樽前山の外輪山が目に飛び込んでくる

 あとはただ踏み跡のようなルートをたどっていくと、正式な登山道に合流する。札幌に近い大人気の山だけあって、晴れの休日は驚くほど混雑しているのに驚くかもしれない。一般登山道ではないわりに登山者が多い苔の回廊だが、それでも樽前山本体に比べればマイナーなルートだったことに改めて気づかされる。

樽前山に由来する名をもつ「タルマイソウ」。イワブクロの一種で、この山域を彩っている
樽前山に由来する名をもつ「タルマイソウ」。イワブクロの一種で、この山域を彩っている
だんだん近付いてくる樽前山の溶岩ドーム。この地形も苔の回廊も、樽前山が活火山だからこそ生まれたものだ
だんだん近付いてくる樽前山の溶岩ドーム。この地形も苔の回廊も、樽前山が活火山だからこそ生まれたものだ
歩いてきた方向を見ると、奥に支笏湖。写真のちょうど中央付近が、苔の回廊がある楓沢である
歩いてきた方向を見ると、奥に支笏湖。写真のちょうど中央付近が、苔の回廊がある楓沢である

交通の便が良く、全国から登りに行くべき北の名山と“名回廊”

 先に樽前山は札幌に近いと書いたが、それ以上に近いのは新千歳空港だ。さらに近いのは苫小牧の街で、苫小牧港は本州の各地、具体的には八戸、仙台、大洗、名古屋とカーフェリーで結ばれている。意外なほど日本各地からの交通の便はよい。

 樽前山は標高の低さゆえに日本百名山には入らなかったのだろうが、僕個人の視点で言えば、日本を代表する名山中の名山だ。その山頂へ苔の回廊を通って向かうルートは、コアな登山好きにすらほとんど知られていない黄金コースといってよいだろう。しかも難易度はさほど高くはない。

樽前山の外輪山の最高地点。苔の回廊を歩いたら、やはりここまで歩いたほうが風景のメリハリを感じられておもしろい
樽前山の外輪山の最高地点。苔の回廊を歩いたら、やはりここまで歩いたほうが風景のメリハリを感じられておもしろい
山頂から南を眺めると、太平洋に面した苫小牧の街並みが見える。苔の回廊に苔がきれいに生えているのは、海が近くて湿気が多いことが一因だ
山頂から南を眺めると、太平洋に面した苫小牧の街並みが見える。苔の回廊に苔がきれいに生えているのは、海が近くて湿気が多いことが一因だ

 そうはいっても、苔の回廊はやはり一般登山道ではない。だが、それなりの経験がある人は、ルートを事前に調べて一度は歩いてみてほしい。そんな山中の隠れた名所なのであった。

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次回、連載第5回は4/5(日)公開予定です

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高橋庄太郎

たかはし・しょうたろう
山岳/アウトドアライター。1970年宮城県仙台市生まれ。高校の山岳部で山歩きを始め、出版社勤務後の2年間の無職時代には国内外のアウトドア旅へ。その後フリーランスのライターとなり、ウェブメディアや雑誌を中心に執筆活動を続けている。近年はイベントやテレビへの出演も多く、アウトドアギアのプロデュースも手掛けている。著書に『テント泊登山の基本テクニック』(山と渓谷社)、『トレッキング実践学』(ADDIX)、共著に『“無人地帯”の遊び方』(グラフィック社)など多数。

Instagram: @shotarotakahashi
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