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小野一光「限界風俗嬢」

「普通の女子大生」に戻っても――語りたくない過去、折れそうな心のバランス

“戦友”であるリカの存在

「ところで、自分の性欲とはどう折り合いをつけてる?」
「性欲ですか。うーん、たぶん私、性欲強い方だと思うんですよ」
「でもいま、彼氏と別れちゃったよねえ」
「だから自分でしちゃってます。でも、できることなら誰か探したいなって思いますね。うふふふ。探したいんですけど、どうもうまい具合に見つけられないんで。それに、前の彼氏と付き合うときに、セフレは全部切ったんで。あの、笑っちゃう話があって、前にリカと飲んでたときに、『あのさあ、お前はさあ、愛人タイプなんだよ』って。あはは。リカに言われましたね。『もうお前は誰かの愛人になった方がいいよ』って」
「そんなことを言うリカちゃんはどうなのかねえ?」
「あの子もまわりからは強く見られますけど、実際は弱いといえば弱いから。繊細な子なんです。そういえばリカ、こないだ実のお父さんと、彼氏さんと一緒にご飯食べに行ったらしいですよ。実のお父さんとは定期的に会ってるみたい」

 アヤメはリカの話をするとき、実に嬉しそうな顔をする。全幅の信頼を置いた、それこそ“戦友”のことを語る表情を見せる。

「たぶん本人に会ったときに向こうが言うと思うんですけど、あの子が新宿で住むようになったのも、置き手紙一枚残して実家から飛び出してきたからなんですよ。母親から逃げるために。よく二人で話したときに、リカは『自分の夢よりも、自分の目の前の生活を脅かされる危険度が高かったから、そこから逃げるのを優先してしまった』って言うんです。それで、私が夢のために大学院を選んで、親から逃げないことっていうのは、『ある意味強さだから大丈夫だよ』って言ってくれるんですね。『私はそれができなかったけども』って……」

 実家で継父によるリカへの性暴力が明るみに出たとき、実母が彼女を敵対視して攻撃するようになったという話を、前にリカ本人から聞いている。私は、親から逃げないことが強さではなく、ときには逃げることが最良の解決策であり、リカが負い目を感じる必要はまったくないと口にした。

「そうですね。でも私はリカが私を力づけるためにそう言ってくれることをありがたいなって思うし、また頑張ろうって気になるんですよ。だからこそ、彼女にもしなんかあったら、なにを差し置いても駆けつけたいなって思ってるんです」

 胸の奥が熱くなる。ふと、私とアヤメを挟むテーブルの上の食べ物が、ほとんどなくなっていることに気付いた私は切り出した。

「カラアゲいけるかい?」
「いけます!」
 
 アヤメは笑顔で即答した。

アヤメの親友であるリカも、新たな一歩を踏み出しているようで――次回は2/21(金)更新予定です。
「SMクラブで働く女子大生アヤメ」連載第1回はこちら。「歌舞伎町で働く理系女子大生リカ」連載第1回はこちら

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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