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小野一光「限界風俗嬢」

女子大生風俗嬢が悟った「卒業」のタイミング

「これ笑っちゃう話なんですけど、面接中に、『うちの店はマニュアル接客なんで、なにも心配することないですよ』って言われたんですよ。それが逆効果で、私には。マニュアル接客で怒られてパニックになったっていう過去だったんで、逆にそれを言われたことでパニック発作を起こしちゃって、手、震えちゃって、泣き出しちゃって、もう続けられなくて、面接自体がなくなったっていうか……」

 以前のインタビューで、アヤメはSMクラブでの仕事を始める前に、風俗ではない店でアルバイトをしていたことを明かしている。その際には、「メンタル的な原因で発作が起きちゃって、仕事を続けられなくなったんです」と話していた。

「トラウマになったのはどういうこと?」
「大学一年のときに、地元の『××』で働いてたんですね。少しだけ。そのときに、忙しさと、その忙しさのなかでマニュアルでやっていかなきゃなんないのがしんどくなっちゃって、それ以来、働くのが怖くなっちゃったんで……。店で責め立てられちゃったんですよね。あまりにも仕事ができないのもあるんですけど……」

 この店も全国チェーンの飲食店だ。私は、「まあ、慣れないうちはそういうこともあるよね」と口にする。

「初めてのアルバイトだったので……」

 あまりに極端な経験である中高生時代の援助交際を除外すれば、この飲食店でのバイトが、彼女にとっては初めての、社会と繋がりを持った仕事ということになる。だがそこで心が折れ、挫折してしまったというのだ。

ちゃんと人として、相手をしたい

「とはいえ、その後の仕事でも接客を選ぶのはなんでなんだろうね?」
「やっぱりいろんな人と出会いたいからですかね。なんか、人の話を聞いたりとか、人と話すのは嫌いじゃないので……。だから、こういう感じで向き合ったりとか、隣に座ったりとか、一対一でも、一対複数でも、ちゃんと人として、相手をするっていう仕事は性に合うと思ってるんで……。それこそ風俗の仕事もそうだったんです。やっぱり一人のお客さんと、そういうゆっくり対応ができるって言うんですかね……」

 つまりマニュアル化された忙しい環境のなかで、機械的な仕事に忙殺されることには耐えられないが、ゆっくり相手と向き合う仕事はやりたいし、性に合うということなのだろう。アヤメは続ける。

「いまの接客業でももちろん、言い方悪いですけど、人をおカネとして見なきゃいけないときって、どうしてもあるんです。だけど一対一の対話があるので……」
「人をおカネとして見るというのは、相手の気を引くようにするとか、気に入って貰えるようにするっていうこと?」
「そうですね。あの、なんだろうな。でも、基本的にはそこまで極端なことはないです。こういう話をして盛り上がればいいな、くらいです。私は色恋みたいな営業はしないので。その人に気に入って貰えば、まあドリンクは出るかな、くらいは考えますけど……」
「ああいう店って、やっぱり女の子のドリンクが出ると出ないとで違うの?」
「うふふ、バックが入るんで」
 
 バックというのは、基本給のほかに売り上げに則して女の子に入る歩合給のことだ。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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