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SM嬢が小学生の時に受けた「イジメ」という名の性暴力

「イジメは小四の二学期からです。ちょうど地方から東京に戻ってきたばかりのとき。公立の小学校でした。最初のうち、私は休み時間は図書室に籠ってたので、そんなにひどくはなかったんですけど、五年になってから嫌がらせが始まって、無視をされたり、面と向かって悪口を言われるようになったんです。軽い暴力なんかもあったので、このときは親に相談したんですけど、『あまり反応しない方がいい』という答えでした。それで無視をしていると徐々にエスカレートしてきて、図工の熱したハンダゴテを押しつけられたり、アルコールランプで髪を燃やされたりしたんです。やってたのは主に男の子でした」

 彼女をイジメていた同級生のなかで、中心人物だった男子は、地域の小中学生が参加するスポーツチームに所属していた。アヤメ自身もそのチームとは関わりがあり、小六のときに地元の中学生と知り合っている。そのなかで彼女に優しくしてくれた、一学年上のA先輩に対して密かな恋心を抱いていたと語る。

「それで小六のとき、A先輩から小学校の体育館の倉庫に呼び出されたんです。嬉しくて一人で行ったら、そこでA先輩にエッチを迫られたんですね。私は別に嫌じゃなくて、(A先輩は)ちょっと大人ぶってるから、そういうことをやるんだなと思って、そのまま受け容れました。それで終わったら、うしろから二、三人の先輩が入ってきて、羽交い締めにされて、まわされたんです……」

 ここのくだりで一瞬、彼女がなにを言っているのか理解できなくなった。小六女子と中一男子の性体験についてはさておき、集団レイプの被害に遭っていたとは……。しかも、この文脈から考えると、彼女が恋心を抱いていたA先輩が、犯行に加担していたことは明らかだ。イジメやイタズラの枠を超えた、紛れもない犯罪だといえる。だがその犯行はそれだけに止まらない。落ち着いた口調でのアヤメの言葉は続く。

「最初は抵抗しました。けどどうしようもなくて……。その後、放課後に呼び出されては、一年近くその人たちにやられてました。たまに中三の人にもやられてました。あとで気がついたんですけど、小学校で私をイジメてた同級生が、スポーツチームでその先輩たちみんなと繋がってたんです」
 配慮のまったくない少年の犯行であるため、妊娠を心配する私に対して、アヤメは「生理が始まったのは遅くて、中一の後半からでした」と言葉を挟んだ。つまり、初潮よりも前の時期に、彼女は性をもてあそばれていたのである。その絶望の深さは想像を遥かに凌駕する。

「親には言えなかったですね。それに、誰かに相談できるって状況でもなかったので」
 親に話せないというのはわかる。だが、誰にも相談できない状況というのはどういうものだったのだろうか。私は「どうして?」と言葉を継ぐ。

「私をイジメてた中心人物の親って、学校のPTA会長だったんです。だから先生も注意しない存在でした。そういう大人の態度を見て、力関係を感じていたんです。一回、軽いイジメがあったときに校長先生に訴えたことがあるんです。けど『そういうことも経験しとかないと』って言われて、『(イジメた相手を)よく見とくよ』って。それで大人に言っても意味はないって思いました」

 なんだそのとんでもない校長は、との怒りを抱くとともに、五十歳を超えた自分の年齢もあってか、だけど現実にはそういう奴もいるんだよな、との諦念がうっかり顔を出す。だがそれではいけないのだ。なぜか怒りを遠ざけようとしている自分に腹が立つ。
 小学校を卒業したアヤメは私立の中高一貫校に入学した。これで公立小時代の負の連鎖が断ち切れるのでは、と想像した私の期待は、彼女の次の言葉で打ち砕かれる。

中学生になったアヤメを待ち受けていた、さらなる苛酷な体験とは……。第3回に続く

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小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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