よみタイ

シングルおばさん、いよいよ家を買う

迷ったときは、楽しい方、楽しい方へ

 もはや私の行きつけにもなっているイタリアンで舌鼓を打って、親戚にいい物件が見つかったことを告げると、本当に買う気があってローンを組むなら、銀行の融資課に知り合いがいるから声を掛けておくと言ってくれました。地元パワー強し。
 フリーランスがローンを組むのはなかなか難しく、目黒のマンションを買ったときもひと苦労でした。これも鹿児島に縁があるからこそ。繋がりのない場所だったら、また考えなければならない問題がひとつ増えるところでした。
 一方で、人と人との繋がりが色濃く、生活に直結してしまうからこそ、利権が生まれやすい土壌が育まれてしまうようにも思えました。

 ホテルに戻って、改めてひとりで考えました。
 東京の変化、格差社会の拡大、自由が生む孤独、共同体の消滅。思えば、子どもの頃は近所の八百屋のおじさんも、薬局のお姉さんも、飲み屋のおばさんも、誰かの同級生だったり誰かの兄弟だったりして、地域という単位で繋がっていました。
 今はまだかろうじて残っているけれど、いずれ都会ではその繋がりが消えていく、あるいは格差社会によって歪なものとなっていくでしょう。独身率がダントツに高い東京で共同体が消え失せたとき、私のように国民年金で月に4万円しかもらえない人が、貯蓄もなく孤独に陥ったらどうなるのでしょうか。
 私はフリーランスで、何の補償もありません。病気になったら収入はゼロ。家を買うという行為は、私にとっては安心を買うようなものです。いつの間にか「持ち家と賃貸、どちらが得か?」という文脈で語られるようになってしまいましたが、それは安心とお金がすり替わってしまった結果なのだと思います。

 何度もいったりきたり、じめじめぶつぶつくよくよ考えていても、自分でもわかっています。答えなんて、とっくに出ているのです。
 林さんも森永さんも、“気づいた人から動き始めている”と言っていました。
 今の私は、気づいているくせに動いていない状態。しかも、どうやら結構早く気づいてるっぽい。
 いや、なんだったら、最先端をいっている! そうに違いない!
 保険会社を辞めたときも、出版社を辞めて独立したときも、石橋を叩いて叩いて叩いたところで誰も未来なんて予想できないんだからと、迷ったときは楽しそうな方向に舵を切ってきました。独立して14年、久しぶりに岐路がやってきたようです。
 家、買ったる。買ったろうじゃないの。
 ワインの力を借りて自分を鼓舞し、こうしていよいよ移住計画が実行に移されることになったのでした。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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