よみタイ

酒井順子「家族終了」
男女の夫婦に、子ども二人。
かつて日本の「核家族」はそんなイメージだった。
現代は、入籍も結婚もせず、子どももいたりいなかったり、
血縁関係なく同居していたり、同性同士がカップルだったり。
家族とは何だろう――変わりゆく「家族の風景」を考察するエッセイ。

第13回 一人家族

 日本の「世帯」を構成する人数は、どんどん減っています。国民生活基礎調査によれば、一九五三年(昭和二十八年)の、平均世帯人員は、5・0人。戦後のベビーブーム後のこの時代は、平均で五人家族であり、さらなる大家族も、全く珍しくなかったことになります。
 その後、世帯の人数は減り続け、二〇一六年(平成二十八年)時点で、平均世帯人数は2・47人に。60年で、家族の人数は約半減しているのです。
「普通の家族」のイメージは、常に変化していきます。高度経済成長期の頃に流行語となったのは、「核家族」という言葉。夫婦や親子のみで暮らす家族のことを言います。それまでは、祖父母が同居する三世代家族や、身内のみならず、お手伝いさんや書生といった身内以外の人が住み込んでいる家族もあったものでした。
 しかし戦争の傷が癒えた頃からは、家族のメンバーが減少傾向に。個人主義の傾向が強くなるにつれ、身内であっても、世代の離れた人との同居は敬遠されるようになって来たのです。
 若い夫婦は、舅・姑と同居することを嫌がるようになりました。結婚したら、持ち家と自家用車は必須だけれど姑と同居するのは嫌、という若い嫁達の気持ちを表した「家付きカー付きババア抜き」という言葉が流行ったのも、高度経済成長期です。
「サザエさん」一家は、敗戦後すぐに連載が始まったマンガですから、核家族ブームの前の日本の家族像を示しています。既婚子持ちのサザエが実家に住むという形態は当時としては特殊ですが、祖父母から孫まで、三世代七人という大家族は、今では農村等でしか見られなくなったスタイル。
「ちびまる子ちゃん」で描かれるのも、三世代同居の六人家族です。高度経済成長期に生まれたさくらももこさんはほぼ同世代の私と同様、三世代同居を経験した最後の世代かもしれません。
 今、「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」における大家族は、一種のファンタジーとして、お茶の間(という言葉も既にファンタジーなのだが)で愛されています。中高年は、磯野/フグ田家、そしてさくら家を見て「古き良き日本の家族」を回顧し、若い世代は「こんなに大勢で住んでいたこともあるんだね」という時代劇感覚で、それらのアニメを眺めているのではないか。
 平均世帯人数の減少の原因は、このように三世代同居の減少、そして出生率の減少といったことが考えられるのでした。さらには「単独世帯」、つまり一人暮らしの人が増えていることも、大きな原因でしょう。
 二〇一五年(平成二十七年)の統計では、日本の全世帯の中で、単独世帯の割合は、「夫婦+子供」や「夫婦のみ」の世帯、そしてもちろん「三世代同居」の割合を超えて、34・6パーセントとなっています。今や「一人暮らし」は、日本で最も一般的な暮らし方となっているのです。その割合は二〇四〇年には40パーセント近くなると予測されていますから、「ファミリー」を「家族」と訳すのは、そろそろやめた方がいいのかも。「族」じゃないのだし。もしくは、「家族とは、共に暮らす人達」という感覚を、変えたほうがいいのかもしれません。
 一人暮らし世帯がなぜ増えているかと言えば、人がなかなか結婚しなくなったことがあげられましょう。昔は、結婚するまで実家で暮らし、結婚によって相手の家の「嫁」として組み込まれ、最後は子や孫に看取られる‥‥ということで、一人暮らしはおろか、核家族生活も体験しない一生を送った人がいたものですが、そのような人は今や、絶滅危惧種。
 独身のまま実家を出て一人暮らしをし、一生そのまま、というケースは増えています。ずっと実家に暮らし続ける独身者もいますが、いつかは親も死ぬわけで、やがて一人暮らしとなる。
 結婚して子供がいる人も、高齢になってから一人暮らしになる可能性が大いにあります。寿命がどんどん長くなる今、夫婦が揃って長生きとは限らないわけで、つれあいに先立たれてからの人生が延々と続く可能性がある。
特に女性は男性よりも寿命が長いですから、夫に先立たれた後に一人暮らしになるケースがしばしば見られるのです。
 一人暮らしの人は、そうでない人から「可哀想」と見られがちです。大家族は「和気あいあい」「賑やか」等と言われ、そこに暮らす人は決して「可哀想」と言われないのに対して、一人暮らしの人、それも特に高齢者は、
「寂しくないですか?」
「孤独死が心配では?」
 などと言われることになる。
 しかし私は、
「一人暮らしは本当に『可哀想』なのか?」
 と、疑問に思うのでした。一人暮らしが増えていく大きな理由として、私は「一人暮らしが楽しいから」というものがあるように思います。私は、生まれた時は三世代五人家族で、その後四(祖母死去)→三(兄、結婚により家を出る)→一(実家を出て一人暮らしに)と家族のメンバーを減らしていき、今は同居人と二人で暮らすわけですが、一人暮らしはとにかく気楽で、楽しかった。もちろん寂しい瞬間もありますが、他人に気を遣わなくていいという気楽さは、格別です。
 独身一人暮らしが長い人は、
「今さら誰かと暮らしたくない」
 と言います。とはいえ高齢になったら寂しさが募るのでは、という意見もあると思いますが、高齢だからこそ一人がいい、という人もいるのではないか。
 高齢者の自殺が多いある地域においては、一人暮らしのお年寄りよりも、家族と共に住むお年寄りの方が、自殺率が高いのだそうです。家族と同居していると、周囲は「家族と一緒だから安心」と思いがちですが、誰かと一緒にいる孤独の方が、一人でいる孤独よりも辛いもの。家族がそれぞれしたいことをしている中で、お年寄りの孤独感は深まるのかもしれません。
 対して一人暮らしのお年寄りは、一人でいることに慣れていますし、その楽しみ方も自分で模索します。周囲も、「あの人は、一人暮らし」と、何かと気にかけていたりもする。「独居老人」というとすぐ「不幸」「寂しい」と見られがちですが、そうでもないケースは意外と多いのではないか。
 日本人としては、「他人に迷惑をかけたくない」という感覚も、強く持っていることでしょう。東日本大震災の後、避難生活が続く中で、「家族に迷惑をかけているのが辛い」という思いが募るあまり自殺してしまったお年寄りのニュースがありました。幼い頃から「他人に迷惑をかけてはならない」と叩き込まれている日本の高齢者は、避難生活にあらずとも、家族と共に生活することによって、「迷惑をかけているのではないか」という罪悪感に苛まれ続けるのです。
 その点、一人暮らしであれば、「家族に迷惑」という感覚とは縁遠くいられます。また、「老化している自分がどう見られているか」といった意識からも、解放されるのではないか。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。広告会社勤務を経て執筆専業。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。著書に『おばさん未満』『男尊女子』『女子と鉄道』『源氏姉妹』『an・anの噓』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』など、現代世相の分析から古典エッセイまで多数。

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