よみタイ

酒井順子「家族終了」
男女の夫婦に、子ども二人。
かつて日本の「核家族」はそんなイメージだった。
現代は、入籍も結婚もせず、子どももいたりいなかったり、
血縁関係なく同居していたり、同性同士がカップルだったり。
家族とは何だろう――変わりゆく「家族の風景」を考察するエッセイ。

第14回 毒親

 年をとる毎に痛感すること。それは、「親の影響の大きさ」です。
 若い頃は、自分と親との間のつながりを、ほとんど意識せずにいました。誰かに「似てる」などと言われても、親と自分の間に共通点を見出すことができず、「たまたま家族だけれど、親と私は、全く別の人」だと思っていたのです。
 しかし年をとればとるほど、自分の中に存在する「親がもたらしたもの」の分量は、増してくるかのよう。「自分は紛れもなく、あの親の子供である」と、実感せざるを得なくなってきたではありませんか。
 例えば私は、顔は父親寄りで、身体は母親寄りなのですが、年々、寄り方が著しくなっていくのです。加齢と共に顔の肉に締まりがなくなり、タレ目になっていくその感じを鏡で見て、
「お父さん‥‥」
 と思ったり。気を抜いた瞬間の写真は、父親を通り越して、祖父に似ていたりもする。
 首から下では、手の甲に血管の青筋がぼこぼこと浮く様や二の腕の筋肉の付き方などを見て、
「お母さん‥‥」
 と、母が懐かしく思い出される、と。
 体質も、母親に近いような気がします。加齢とともに私は胃弱となってきたのですが、「そういえば母親も、『遅い時間に食事をしたくないわ、もたれるから』とか言っていたっけ。その気持ち、わかるわー」と思いますし、極端な冷え性というのも似ている。母親が今も生きていたなら、
「お母さんも、色々大変だったのネー」
 と、互いにしかわからぬ「体調あるある」を話し合ってみたいものよ、と思います。
 咳払いの仕方なども、母親そっくりになってきて怖い昨今、友人達を見ても、お母さんに酷似してくるケースがままあります。母娘共に知っている学生時代の友達の場合は、私達が学生時代の頃の彼女のお母さんの姿に生き写しになっていたりもします。同窓会で久しぶりに会うと、一瞬お母さんが来てしまったのではないかとびっくりするのでした。
 親から子へと引き継がれる、生物としての濃厚な「何か」。それははるか昔のご先祖様から脈々と流れてきた「何か」であり、「この流れを私は今、止めようとしているのだなぁ」ということも実感せざるを得ません。
 このように、外見だけをとっても、「人間は、そう変わるものではない」と思うわけですが、外見と同様に人間の中身も、変わらず受け継がれていくものです。
 私の場合、明るくて社交的、人見知りをしない、といった母親の良い部分は全く遺伝しなかったのですが、悪いところはそっくり引き継いでいます。ずっと母親に対して「嫌だな」と思っていた、承認欲求の強さとか知ったかぶりをするところなどは、大人になればなるほど、自分の中ではっきりとその存在を主張するようになってきたではありませんか。
「これも遺伝? それとも身近で母親を見ていたが故の影響?」
 と、ぞっとするものです。
 また私は、婚外恋愛というものに対して「人間なんだから仕方がない」という鷹揚な感覚を持っていますが、それもまた、親の影響でしょう。前にも書いた通り、我が母は婚外恋愛の楽しみを享受していましたから、「そういうものだ」と思って私は思春期を過ごし、今に至ります。対して、両親がずっと仲良しだった人の場合は、自分が結婚した後、相手に浮気などされようものなら、ただならぬショックを受けることでしょう。またその手の人は、自分が婚外恋愛をする可能性も、低いのかもしれない。
 子供に対する親の影響は計り知れないものがあるわけですが、私の好きな卓球界においては、それがわかりやすい形で現れています。張本智和くんをはじめとした天才卓球少年・少女は、「天才」と言われているものの、天賦の才だけで卓球をしているわけではありません。2歳とか3歳の頃から親がラケットを握らせて猛特訓したからこそ、世界に通用する選手となったわけで、卓球界においては、もはや親の意志なしでトップ選手になるのは、難しいのではないか。
 しかしそういった「親の方針」は、時に裏目に出ることもあります。新聞を読んでいたら、ある女性のインタビュー記事が載っていました。彼女は、自分の心身を捧げるようにして、親との縁が薄い子供達のためのボランティアに取り組む。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。広告会社勤務を経て執筆専業。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。著書に『おばさん未満』『男尊女子』『女子と鉄道』『源氏姉妹』『an・anの噓』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』など、現代世相の分析から古典エッセイまで多数。

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