よみタイ

酒井順子「家族終了」
男女の夫婦に、子ども二人。
かつて日本の「核家族」はそんなイメージだった。
現代は、入籍も結婚もせず、子どももいたりいなかったり、
血縁関係なく同居していたり、同性同士がカップルだったり。
家族とは何だろう――変わりゆく「家族の風景」を考察するエッセイ。

第12回 新しい家族

 かつては皆がするもの・できるものだった、結婚。しかし、そこにたどり着くまでが意外と難儀である上に、結婚の枠の中に居続けることがあまりにも大変で覚悟が必要ということで、その前で立ちすくむ人達が増えてきました。
 恋愛結婚がほとんどの時代においては、異性との恋愛という部分において高い能力を持つ人でないと、結婚したくてもできない、という事情も、そこにはあります。恋愛に奥手であっても、親や親戚がどこからか適当な相手を見つけてきてくれた時代は、「国民皆婚」状態を保つことができました。しかし「押しつけられた相手は嫌。結婚相手は自分で選びたい」という声が強まり恋愛結婚が主流となると、結婚できるもできないも自己責任、ということに。親や親戚、近所の世話好きおばちゃんからの救済の手が差し伸べられなくなったことも、独身者増加の一つの要因でしょう。
 とはいえ周囲を見回せば、「大体の人は、結婚している」という感覚を持つ人が多いのではないでしょうか。世の多数派は、やはり法律婚をしている人達。
 私達は、半分以上の人がしていることを「みんながしている」と思いがちで、「みんながしている」ことは「簡単なことだから、私にもできる」とも思いがちです。しかし今までの人生で私が理解したのは、「みんながしている」ことは大抵、全く簡単ではないということ。
 たとえば受験や就職、運転免許の取得といった行為。「みんながしているから、たやすいのだろう」と思って軽い気持ちで取り組んでみたら、とんでもない目に遭ったことが、あなたには無いでしょうか。「みんながしていること」は、一種の通過儀礼的な役割を果たしているせいもあってか、ただならぬ努力と根性を発揮しないと達成できなかったりするのです。
 結婚もまた、そんな行為の一つです。「みんながしているから私にもできるだろう」という考えは甘いわけで、結婚に対して仕事と同等もしくはそれ以上の力を傾注しないと、目的は達成できない。のんびりしていたら、あっという間に「生涯未婚率」を押し上げる仲間入りをすることになります。
 生涯未婚率とは、五十歳の時点で一度も結婚経験が無い人の割合です。二〇一五年の調査で、男性が約23パーセント、女性が約14パーセントなのですが、いわゆる事実婚をしている人も、この数字には含まれます。平成になった頃は、男女共に5パーセント前後であったことを考えると、その割合が急上昇していることが理解できましょう。
 経済的な理由や恋愛の得手不得手など、生涯未婚率上昇の背景には、様々な理由があります。その数字は、今後さらに上昇すると考えられており、結婚が「皆がするもの・できるもの」という感覚は、過去のものとなりました。
 だとしたら、やはり結婚、というよりはつがい作りに新規参入がしやすいように、規制緩和をする必要があるのではないかと、私は思うのです。前回記したように、事実婚カップルにも法律婚と同様の権利を与えるというのも、その一つでしょう。
 昨今は、つがいを作るのは男と女とは限らないことも、よく知られるようになっています。LGBTという言葉は、ここ数年でにわかに人口に膾炙かいしゃすることによって、生まれた時の性と性自認が一致していて、かつ異性を好きになる人ばかりではないことが、明らかになってきたのです。
 たとえば勝間和代さんが同性との交際を明らかにしたことがありましたが、そのニュースを見た知人女性・Aさんは、
「自分も、そういうのもアリかなって思う」
 と言っていました。彼女は今まで異性としかつき合ったことがありませんが、
「でも、考えてみたら同性ともいけるかもしれない、って思うの」
 とのこと。女子校に通っていると、女同士での恋愛感情のようなものが芽生えたりしがちですが、彼女の中には今でもその手の感覚があって、同性がパートナーであるのもやぶさかでない、とのことなのです。
「男の人とのことは大体わかったし、これから新たなフィールドで生きるのも楽しそうな気がする」
 ということなのでした。
 別の知人女性・Bさんは、勝間さんのニュースに関して、
「老後は、女性と暮らすのもいいかなって思いました」
 と言っていました。彼女もまた異性愛者ですが、Aさんとは違って、同性に恋愛感情を抱く可能性は自分には無いと思っています。
 しかしそんなBさんの「同性と暮らすのもアリ」という考えを聞いて、私は目から鱗が落ちたような気がしたのです。そういう考え方もあるのか、と。
 私は、そもそもは夫婦=法律婚をした男女、と思っていたクラシックな人間です。が、自分がその制度についていくことができなかったことによって、「すべてのつがいが法律婚をしていなくてもいいんじゃないの」と思い、さらにはLGBTについて知ることによって「つがいは異性同士とも限らないわけね」と思うに至ったわけですが、それでも「つがいにとって、セックスは必須」という感覚は、頑なに持っていたのでした。
 セックスレスとなってはや何十年、というカップルは、日本にたくさんいます。と言うより、日本において結婚歴、交際歴の長いカップルで、ずっとセックスをし続けているケースは少数派でしょう。
 しかしセックスレスのつがいであっても、「かつてセックスをしていた時期がある」という事実が、二人が共に暮らす基盤となっているのだと私は思っていました。異性カップルであれ同性カップルであれ、かつて性的に惹かれ合った者同士がつがいを作り、共に暮らすのだ、と。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。広告会社勤務を経て執筆専業。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。著書に『おばさん未満』『男尊女子』『女子と鉄道』『源氏姉妹』『an・anの噓』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』など、現代世相の分析から古典エッセイまで多数。

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