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美容、健康、イイ女……すべてが手に入る祖父の愛した酒

 養命酒の正式名称は「薬用養命酒」といい、漢方医学の考え方に基づいて作られた薬酒である。十四種類の生薬が配合されており、続けて服用することで、全身の血行と代謝が改善され、冷え症の克服、滋養強壮などに役立つらしい。
 なんて御託はこの際どうでもいい。まずは一杯クイっとやってみよう。蓋を開けてから、まずはくんかくんかと匂いをチェックする。子供の頃の記憶では薬品臭い嫌な匂いだとばかり思っていたが、今嗅いでみると、ほんのり甘くてちょいとスパイシーな香りがする。

 トクトクトク……とカップに注いだ茶色い液体をゴクリと飲み干す。シロップタイプの風邪薬にシナモン風味が混ざった不思議な味が口の中いっぱいに広がる。甘くもあり苦くもあり、飲む人によって味の感じ方が大きく変わるであろうクセの強さだ。
 それよりも気になるのは、飲んだ瞬間にお酒だとわかるアルコール度数の高さである。成分を調べてみるとアルコール分は14%、これは日本酒やワインと同じぐらいの高さらしい。

 正直好きな味ではない。どちらかといえば苦手な味ではある。だが私は、大好きだった祖父が愛飲していた養命酒を飲み続けてみようと心に決めた。
 孫である私にとにかく優しかった祖父。

「爺ちゃんの夢やった医者に、お前が代わりになってくれへんか」
「爺ちゃんの大好きな碁を覚えてくれへんか。お前と一局打つのが夢なんや」
「爺ちゃんが戦争に行った中国へ一緒に行かへんか。お前に見せたい綺麗な景色があるんや」
「お前の可愛いお嫁さんの顔を早く見せてくれへんか」

 親不孝者の私は、祖父の願いを何一つ叶えてあげられなかった。罪滅ぼしというわけではないが、死んでしまった祖父が好きだった酒ぐらいは受け継いでみるのも悪くない。
 それに、先祖代々大酒飲みの家系である我が家は、酒が原因で祖父も親父も警察沙汰の不祥事を起こしている。かくいう私にもその気配は感じられる。養命酒による健康的な飲酒生活を送り、ここらでその悪しき呪いも打ち止めにしたいところだ。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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