よみタイ

おじさんは、なんでもアップデートする生き方に疲れました。

次の日曜日。可愛いシロクマのイラストが入ったマイボトルを片手に、近所の公園へ。

いつものベンチに腰掛け、ボトルの中のルイボスティーをゴクゴクプハー。煮出しを始めた頃は、何度も分量を間違え、雑巾のしぼり汁ような味がする失敗作をつくったものだが、最近はそんなヘマもなくなってきた。

時刻は昼の十二時。お日様の光を全身で受け止め、心と体の光合成を開始。私の体内を駆け巡る活きのいい二酸化炭素と酸素たち。

ああ、幸せとまでは言わないが、ちょっとイイ感じの日曜日じゃないか。

数か月前、同じベンチに座って2リットルのコーラをラッパ飲みしていたのが遠い昔のように思われる。

「炭酸飲料ではなくルイボスティーを飲むようになった」

それぐらいの些細なことだが、私の人生にとって、これは〝大きな意味を持つ小さな一歩〟なのだ。結果を求めすぎず変化を大切にする。自分にしかわからない微妙な変化に一喜一憂しながら、自分自身と丁寧に向き合うことこそが、美容と健康を楽しむコツなのかもしれない。

私には、流行りのアップデートなんて必要ない。無理な上書きなどしなくとも、ほんの少しだけ自分の意識を変えることで、人生の風向きは驚くほど変わるのだから。

なんてことを考えているうちに、あっという間に空になってしまったマイボトル。500ミリリットルと2リットル、この容量の違いにだけはまだ慣れない。

そうだ。ちょっと大きめのマイボトルを探しに行こう。帰りに食料雑貨店にも寄って、新しいルイボスティーも発掘しよう。「私も、ルイボスティーにハマってしまいましてね」なんて調子のいいことを店員さんに言ってしまおうか。
そして実は、いずれは紅茶にも挑戦したいという野望を抱いている。私が紅茶を飲むなんて、それはもはやアップデートを超えたひとつの革命である。いつか訪れる「紅茶革命の日」が今から楽しみで仕方がない。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は10月9日(日)21時配信予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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