2022.9.25
おじさんは、なんでもアップデートする生き方に疲れました。
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。
前回は、「いいおじさん化計画」のためダイエットをスタートしたら、大好きだった炭酸飲料との別れとルイボスティーとの出会いがあって……。
今回は新たな恋人「ルイボスティー」との、その後のエピソードです。
(イラスト/山田参助)
第5回 ルイボスティー、イン、マイマイン
〝イケてるおじさん〟よりも〝イイ感じのおじさん〟になりたい。
齢四十二にして、俄かに「美容」と「健康」 に興味を持ち始めた私は、そんな小さな野望を胸に抱くようになった。
取っ掛かりとして、砂糖と油と化学調味料にまみれた日々の食生活を見直そう。まずは、明らかに過剰摂取である炭酸飲料からだ。幼なじみであり長年の親友といってもいい炭酸飲料に別れを告げ「ルイボスティー」という新しい相棒と共に、私は未知なる世界へと足を踏み出す。
南アフリカ生まれのルイボスティー。紅茶と烏龍茶が混ざったような赤褐色の液体が、私の渇いた喉を潤す。ほのかな酸味とスッキリとした後味がクセになる。それでいてカフェインが入っていないというのも健康にいいらしい。
しかし、人生とは不思議なものだ。
貧しい家庭に生を受け、〝紅茶イコール富裕層の飲み物〟という偏見を刷り込まれて育った私が、ハーブティーのような洒落た飲み物を口にすることになるなんて。
「高慢ちきな金持ち連中がいやらしい顔で紅茶をすすっているときに、地べたを這いつくばって働いている人たちがこの国を支えているんだ。私は午後の紅茶を飲む大人になんてなりたくない。私は午後に麦茶を飲む大人になりたいんだ」
という具合に、紅茶を毛嫌いしていた私が、まさかルイボスティーと恋に落ちるとは。
なんでも南アフリカの先住民の間では「不老長寿のお茶」とも呼ばれていたらしい。そういう胡散臭いところも含めて、私はルイボスティーを愛している。
小粋な喫茶店に足を運び「ルイボスティーをひとつ」なんて注文は、初心者の私にはまだ早い。まずは手近なところからルイボスティーに慣れ親しんでいこう。というわけで、セブンイレブンで売っているペットボトルのルイボスティーを愛飲することに決めた。
午前二時のセブンイレブン。普段は目も留めないお茶のコーナーに陳列されているルイボスティー。こんなに近くにいてくれたのに、今まで気づかなくてごめんよ。
レジに置かれた大量のルイボスティーを一瞥した店員がこちらをじっとりと見つめている。このおっさん店員とも、もう十年以上の付き合いだ。言葉にしなくとも、目と目で通じ合う信頼関係が私たちにはある。
「この客、ダイエット始めるんだな。まあ、この体型じゃ仕方ないよね……」とでも言いたそうなおっさんの視線に耐え切れなくなった私は「お茶好きの彼女ができたんですよ」と苦しい言い訳をした。
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