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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

保守王国・富山県知事選挙は新人候補の大逆転劇! 選挙取材のプロが「新田陣営で開票待ち」をした理由

「こんなすごい選挙はこの先50年ないかもしれない」

 富山県は保守王国だ。1977年の富山県知事選から前回までの11回の知事選挙は、すべて候補者が2人しかいなかった。そして、過去の選挙結果を見ればわかる通り、いつも大差がついていた。一票差で争うような、横一線での選挙戦は長らく経験していない。
 そのことが原因で、富山県の候補者も有権者も、選挙戦術の最新トレンドをつかめていなかったのではないか。だから富山県の有権者は、公職選挙法の隙間を突く作戦に大いに戸惑った。汚いやり方だと罵る人もいた。中には激怒する人までいた。

 私から見ると、富山県民は選挙に対して、「超」がつくほど純朴だったのだと思う。そうでなければ、前回知事選の投票率が歴代最低の「35.34%」になるはずがない。3人に1人しか投票しない選挙は、どう考えても異常である。そして、その異常事態は日本各地でも起きている。

 きっと富山で投票に行かない人たちは「純朴」な人が多いのだろう。入れたい人がいないから、と自分の一票を捨ててきたのかもしれない。しかし、この連載で何度も言ってきたとおり、政治的無関心は生命と財産に関わる。自分のためにも、そろそろ選挙と政治に興味を持ったほうがいいと私は思う。
 私は純朴であることが悪いと言っているのではない。フェアプレーできれいに勝つのが理想だという考え方も理解できる。
 しかし、選挙は「戦い」だ。結果は選挙に無関心な人の生活も直撃する。だからルールの範囲内であれば、勝つためにできる限りのことをするのは当然だ。そして、その方法は、全国各地で選挙が行なわれる度にアップデートされ、日々洗練されていっている。

 今回、新田陣営には選挙プランナーの松田馨氏が入っていた。
 決起集会での派手な演出は、「賛否両論あった。ロックコンサートと勘違いしているんじゃないかとも言われた」と候補者自身が認めていた。しかし、それでもやってよかったと新田氏は続けた。

「ぜひ今までと違うやり方を盛り込みたいと思っていました。そういう点で富山県の方々には目新しいこともあったんだと思います」

 のぼり旗による知名度アップ作戦は、当初、大きな批判を浴びた。しかし、現職の石井氏も同様の作戦を始めたことで批判は減った。
 確認団体によるビラの折込を「物量作戦」「金がある人しかできない」と批判する人もいた。しかし、選挙は結果が大切だ。
 今回の富山県知事選で勝ったのは、数多くの作戦を繰り出した新田はちろう氏だった。

富山県知事選挙・開票結果(届出順)/投票率60.67%】
新田はちろう(62歳) 285,118票
かわぶち映子(71歳) 25,085票
石井たかかず(74歳) 222,417票

 10月25日20時。投票箱が閉まった直後、NHKが「新田氏当確」を打った。現職を相手にする新人候補が「ゼロ打ち」で勝つのは異例のことだ。
 挨拶に立つ人が代わる代わる音頭を取り、何度もバンザイが繰り返された。「為書き」の上には「祝当選」の紙が上張りされた。これが「富山方式」の選挙なのだという。

 当選直後、選挙プランナーの松田馨氏は興奮を抑えきれない様子で私にこう言った。

「こんなすごい選挙はこの先50年ないかもしれない。もう引退しようかな……。引退は冗談ですけど、それくらいすごい逆転劇でした」

10月25日20時に出た「新田氏当確」。現職を相手に新人候補が「ゼロ打ち」で勝つのは異例。新田氏は「祈必勝」から「祝当選」への上張りを待って20時15分ごろ会場入り。ラガーマンだったことを披瀝しながら「ノーサイド」「ワンチームで」と保守分裂選挙後のしこりを否定した。(撮影/畠山理仁)
10月25日20時に出た「新田氏当確」。現職を相手に新人候補が「ゼロ打ち」で勝つのは異例。新田氏は「祈必勝」から「祝当選」への上張りを待って20時15分ごろ会場入り。ラガーマンだったことを披瀝しながら「ノーサイド」「ワンチームで」と保守分裂選挙後のしこりを否定した。(撮影/畠山理仁)
「為書き」の上には「祝当選」の紙を上張り。これが富山方式。(撮影/畠山理仁)
「為書き」の上には「祝当選」の紙を上張り。これが富山方式。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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