2019.12.23
その数9回! “情熱の薔薇”のついた自転車で選挙に出続ける「ホームレス路上演奏家」
ホームレス路上演奏家、選挙に出る!
大切なことだから何度でも確認する。選挙に立候補する条件はとてもシンプルだ。
「満25歳以上で日本国籍を有する者」
これしかない。都道府県知事や参議院議員では年齢が「満30歳以上」になるが、それ以外は同じ。性別も容姿も関係ない。学歴も職業も関係ない。収入も思想信条も関係ない。誰もが「有権者の代表」になるべく、手を挙げる権利を持っている。
私は選挙の取材を続ける中で、さまざまな候補者に出会ってきた。アルバイトや派遣で働きながら立候補した人もいた。無職の人や年金生活者もいれば、生活保護を受給しながら立候補する人もいた。なかには供託金を用意するため、友人や家族だけでなく、サラ金をハシゴしてお金を借りた人もいた。
その中でも「唯一の人」がいる。それが2019年3月の台東区長選挙に立候補した武田完兵(たけだ・かんひょう/選挙当時70歳)候補だ。武田は家を持たない「ホームレス区長候補」であり、「路上演奏家」を自称していた。しかし、演奏での収入はほとんどなく、行政から毎月10万円ほどの生活保護を受けて命をつないでいた。
驚くべきことに、武田が選挙に立候補したのは台東区長選が初めてではない。1975年に「武田寛(たけだ・かん)/音楽家」として台東区議会議員選挙に立候補したのを皮切りに、区議選5回、都議選2回、区長選2回の計9回も選挙に挑戦している。
しかし、結果はすべて落選。直近の台東区長選挙では自己最多となる2666票を獲得したが、最下位で落選して供託金を没収された。
そもそも、区長選に立候補するには100万円もの供託金が必要だ。いったい、そんな大金をどうやって用意したのか。
「生活費を切り詰めて貯めました。移動はすべて自転車。買い物は安いスーパーまで自転車を走らせ、徹底的に節約しました。また貯めて選挙に出ます」
そんな武田が選挙で訴えてきたのは、「浅草橋駅西口に新たな駅ビルを作る」「隅田川に歩道橋を架けて商店街を復興する」などの地元振興策だった。演説では、生活保護やホームレスの問題にはまったく触れない。自分のことではなく、あくまでも、地元・台東区の発展を考えて政策を訴えている。公の補助で生きる武田には、強い「公の心」があった。