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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

囲碁のプリンセスが白石で作ったハートマーク

 千秋ちゃんと囲碁仲間になってもう一年が経とうとしていた。お互い小学校四年生になり、会った時は同じぐらいの身長だったのが、今では私の方が3センチほど高くなった。祖父と父の教育の賜物で、私の囲碁の腕もメキメキと上達し、今では十回やれば二回ぐらいは千秋ちゃんに勝てるほどだ。生意気な言い方だが、最近ようやく囲碁の面白さも分かってきた気がする。

 そんな幸せの絶頂の時に事件が起きた。祖父が持病の心臓病の悪化で長期入院することになってしまったのだ。幸いにも命に別状はないが、しばらくは絶対安静である。祖父の看病で家族が大変になることを予想すると、学校が休みの日ぐらいは私も家の手伝いをしてあげなければ。たまには碁を打ちに来たかったが、この碁会所は小学生が一人で足を運ぶには、ちょっとばかし家から離れすぎていた。

 私は心を決めた。千秋ちゃんと会えなくなるのは寂しいけど、碁会所に通うのをやめて、家族の手伝いをしよう。

 日曜日も仕事がある親父に、無理を言って車を出してもらい、千秋ちゃんにサヨナラを言うために碁会所にやってきた。うちの親父から、前もって真鍋さんに事情を説明してあったので、千秋ちゃんも私が何を言いに来たのかを分かっている様子だった。

「千秋ちゃん、俺、爺ちゃんのことで頑張らんといかんから、もうここには来れなくなるよ。ごめんね」
「ううん、がんばって。それに中学校は一緒に行けるやんか」
「そう! 小学校卒業したら中学校で会えるね。よかった」
「これ、ヒロキ君にお別れのプレゼント、千秋と爺ちゃんで一緒に頑張って作ったの」

 そう言って千秋ちゃんは大人用の大きな碁盤の上に、白の石で作ったでっかいハートマークを見せてくれた。

「うわぁ、ありがとう。本当にありがとう」
「持って帰れないプレゼントでごめんね。これ覚えててね」
「うん、忘れない。じゃあまたね、千秋ちゃん、俺、碁も強くなっとくからね」
「うん、わかった! 絶対にまた勝負しよう!」

 私と千秋ちゃんはしっかりと指切りげんまんをして、中学校での再会を誓った。
 
 私が小学校を卒業するまで、祖父は入退院を何度も繰り返すことになった。祖父の看病をするために家族は多忙な毎日を送っていたが、みんなで協力してなんとか踏ん張っていた。
 私は師匠を祖父から親父に替え、囲碁の修行も欠かさずに続けた。千秋ちゃんを驚かせてやろうと思って、親父の計らいで何回か内緒で碁会所には行ったのだが、運悪く、千秋ちゃんの姿を見つけることはできなかった。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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