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アートと介護の視点が交錯するとき――。介護職員でアーティストの宮田篤さんに聞く@≪微分帖≫ワークショップ【後編】

手話通訳や音声サポートなどのアクセシビリティ(情報保障)をはじめ、誰もがミュージアムを楽しめる取り組みを総称してアクセス・プログラムといいます。
これらには、視覚・聴覚障害のある人とない人がともに楽しむ鑑賞会や、認知症のある高齢者のための鑑賞プログラムなど、さまざまな形があります。
また、現在はアーティストがケアにまつわる社会課題にコミットするアートプロジェクトも増えつつあります。

アートとケアはどんな協働ができるか、アートは人々に何をもたらすのか。
あるいはケアの中で生まれるクリエイティビティについて――
高齢の母を自宅で介護する筆者が、多様なプロジェクトの取材や関係者インタビューを通してケアとアートの可能性を考えます。

前編ではアーティストでありながら介護職にも携わる宮田篤さんの「微分帖」という作品について紹介。ワークショップで一緒に「微分帖」をつくることで生まれたコミュニケーションについて考察しました。後編では宮田さんにインタビュー。ケアとアート、両方の現場に身を置くことで見えてくること、感じることをお伺いしました。

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アーティストであり、介護職員でもある宮田篤さん。この連載「ケアとアートのダンス アクセシビリティのためのプロジェクト・レポート」のバナーイラストを描き下ろしてくれた人でもある。前編でレポートした1月の「遊びながら学ぼう!
『あなたを知る、わたしを知る』 体験ワークショップ」の後日、これまでの活動やアートとケアの共通点についてインタビューを行った。

宮田さんによる「ケアとアートのダンス」のバナーイラスト
宮田さんによる「ケアとアートのダンス」のバナーイラスト
「微分帖」ワークショップを行う宮田篤さん。写真提供:シルバー新報・月刊ケアマネジメント編集部
「微分帖」ワークショップを行う宮田篤さん。写真提供:シルバー新報・月刊ケアマネジメント編集部

「微分帖」はどのように生まれたのか

宮田篤さんは1984年生まれ、愛知県一宮市出身だ。愛知県立芸術大学大学院 美術研究科美術専攻修了後、美術家として活動を続けながら、介護付き有料老人ホームに入職。介護福祉士資格を取得し同施設でユニットリーダーとして勤務後、現在はサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に併設する訪問介護事業所のサ責(サービス提供責任者)として働いている。

宮田さんは、絵画や彫刻のような造形作品ではなく、「しくみ」や「しかけ」としての美術作品を制作している。他者が参加することで何かができあがり、それをまた別の人々が見て、それぞれの違いが楽しめるアートプロジェクトを「取手アートプロジェクト」(2011年から継続)、「アーティスト・イン・ミュージアム」(2019年 岐阜県美術館/岐阜県美術館)といった様々な展覧会やワークショップで行ってきた。

では、先日のワークショップで行われた「微分帖」はどのようにして生まれたのだろうか? 宮田さんに「微分帖」誕生の経緯を聞いた。
「美術大学で、美術家の寺内曜子先生から、“(作品として扱う素材の)構造が内容を規定する”というアプローチについて講義をお聞きしたことがあったんです。全体をかたちづくるしくみや枠組みといった構造ができれば、その中身や要素の性質や意味=内容が自ずと定まってくるよ、という考え方ですね。
そこから、あるルールに従って紙を折るだけとか、切るだけで完成する作品を制作していた時期がありました。 その中で、紙を折りたたんで重ねると本みたいになるな、という気づきがあったんです」。
そうそう、「微分帖」は、複数の紙を折って重ね、ホチキスで中綴じにした本と同じ構造にある。

「微分帖」の紹介 © Atsushi Miyata
「微分帖」の紹介 © Atsushi Miyata

その頃出会った作曲家の野村誠さんにも影響を受けたという。野村さんは、楽譜が書けなくても何らかの楽器を奏でられれば誰でも参加でき、ある簡単なルールのもとで集団で曲が作れる「しょうぎ作曲」を考案し、各地でプロジェクトを行っていた。
「自分も(しかけやしくみの作品として)ワークショップみたいなことをやり始めていた時期だったので、紙を折りたたんで外側からお話を書いていったらどうだろう、いろいろな人とやってみたら面白いかなと思って。家に遊びにきた友人と試しにやってみたらその第1号から面白いのができたんです。それが『微分帖』の始まりでした」。

以来、当時のアイデアのまま、20年近く続けている。できあがる作品に対しても新鮮な発見や驚きは絶えない。漫画家とは漫画で、詩人とは詩で――と、異なる表現形式でコラボレーションを行ったり、会場をポップアップ文化センター「びぶんブックセンター」としてワークショップを行ったり、様々な作り方や場の開き方を展開してきた。
シンプルだからいろいろな場で使え、一度レクチャーすれば、宮田さんが出向かなくても、誰でもできる。できあがった作品を様々な展覧会で展示するうちに、今では2000冊を超えているそうだ。

(写真上・下)宮田篤《びぶんブックセンター》2024年 グループ展「日常アップデート」より 撮影:阪中隆文 画像提供:東京都渋谷公園通りギャラリー
(写真上・下)宮田篤《びぶんブックセンター》2024年 グループ展「日常アップデート」より 撮影:阪中隆文 画像提供:東京都渋谷公園通りギャラリー

筆者もワークショップに参加してみて、まずは用意するものが紙とペンだけでよく、折りたたんだ紙という一つの単位を重ねていくだけ、というシンプルなしくみだからこそ広がりがあると感じた。デイサービスなどのレクリエーションでアイデアと創作に悩む人にもぜひ体験してほしいと思う。

「今回は、編集部の吉川しづかさんの“他者理解”というテーマを設けたので、様々な経験を積んだ、コミュニケーションに長けた方々が集まり、白熱しましたね。『微分帖』の裾野がさらに広がったように感じます。1対1の組み合わせをいくつか重ねていった方が、私と隣にいるあなたがどう違うかということが感じやすいかなと思ってプログラムを組み立てました。『微分帖』はその場の環境やテーマなどに合わせて様々なやり方で行えます」。

参加者の感想で印象に残ったのは、筆者のテーブルで交わされた「相手に寄り添うか、自分の方に寄せるか、どちらがうまくいくんだろう?」という話題だった。筆者が「奇をてらわず、素直に書いた方が、相手が書きやすい」と思ったことについて、「目いっぱいアイデアを入れすぎると、相手が消えちゃうこともあるかもしれないですね」と宮田さん。それでいて相手から意外な言葉が返ってくると、やはり場が沸く。
例えば1人目の「朝起きると/水道が凍ってて/洗濯できず/悲しい」から、2人目の
「朝起きると/水道が凍ってて/蛇口が回らない/昨日クラブで/踊った/勝負服が/洗濯できず/悲しい」という展開がそうだった。

「1枚目を書いて、最初と最後が決まるので、真ん中を埋めていくんですけど、真ん中を埋めるためには相手の話をよく読まないといけないし、つなげていくためには、自分のアイデアを相手にまた返すように書かなきゃいけない。 それが1枚目を書いた人にとって、自分のお話やアイデアを受け止めてもらったような嬉しい気持ちになるのかなと。
そこから2枚、3枚と重ねていくと、2人の間にお話の空間やイメージが生まれてきて、2人に共通の場所やお話ができてくる。この会話するだけでは生まれないコミュニケーションが楽しいんじゃないかな」と宮田さん。
また、子どもの筆跡に和んだり、達筆だとかえっておかしみが生まれたりと筆跡でニュアンスが加わることや、ときには絵を忍ばせる人もいたりするのは手書きの良さだ。

1月に行われた「遊びながら学ぼう『あなたを知る、わたしを知る』体験ワークショップ」 写真提供:シルバー新報・月刊ケアマネジメント編集部
1月に行われた「遊びながら学ぼう『あなたを知る、わたしを知る』体験ワークショップ」 写真提供:シルバー新報・月刊ケアマネジメント編集部
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白坂由里

しらさか・ゆり●アートライター。『WEEKLYぴあ』編集部を経て、1997年に独立。美術を体験する鑑賞者の変化に関心があり、主に美術館の教育普及、地域やケアにまつわるアートプロジェクトなどを取材。現在、仕事とアートには全く関心のない母親の介護とのはざまで奮闘する日々を送る。介護を通して得た経験や、ケアをする側の視点、気持ちを交えながら本連載を執筆。

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