よみタイ

稲田ズイキ「罰当たりなほどにユルくてポップな仏教トーク」

サラリーマンの人生には仏教の「四苦=生老病死」がフルコンプされてた

通勤の満員電車で「生苦」をかみしめる

通勤の満員電車、これがまず苦である。なんなら四苦八苦を超えて、しょっぱなから三十二苦くらいのレベル。都心に勤めている方ならみんな理解してもらえるはず。すし詰めになった車内で四方八方に体が引っ張られ、とりたくもないのにシンクロ選手のようなポーズをとっているときのあの絶望感。それでも、必ず月曜日が訪れて、僕たちは出社しないといけないのだ(遠い目)。

仏教では根本的な苦「四苦」の一つとして、「生苦」を挙げている。それはつまり、

ブッダ「そもそも生きていること自体が『苦』だからね」

ということなのだ。元も子もない、あまりにも救いようがない、と思うかもしれないが、ここで言う「苦」はいわゆる「苦しみ」「しんどみ」だけに限定されない。「苦」とはそれらを含めた「自分の思い通りにならないこと」なのである。つまり、生苦とは、生きることは思い通りにならないということ。

仏教では「四法印しほういん」という4つの奥義のようなものを掲げているが、そのうちの一つが「一切皆苦いっさいかいく」。つまり「この世のありとあらゆるものは思い通りにはならない」ということが、生きる上での大大大前提なのだ。

まだ寝ていたいのに起きないといけない。行きたくもない会社に行かないといけない。雨の日は地獄だって知りながらも、満員電車に足を踏み入れないといけない。サラリーマンの一日は生苦とともに始まる。

もちろん、自分の意思で変えることは可能だ。行きたくもない会社は辞めればいいし、満員電車を避けるために早朝に会社に向かえばいい。仏教が目の前の現実に対し「すべては思い通りにならないこと」だと我慢を強いるものではないことは先に言っておきたい。

それでも、人生にはどうしても避けられない出来事が起こる。サラリーマンにはいわゆる「配属ガチャ」と言われるように、自分の理想の会社に入れたとしても、苦手な上司のチームに配属されることはあるし、ようやく念願のマイホームを購入した途端に転勤になるという「あるある」もある。理想や希望は現状を変えるが、それでも完全に人生が思い通りになることはない。そんな人生の大前提が四苦の一つ「生苦」だ。

デキる新人君からの冷たい視線に含まれる「老苦」

デキる新人の指導係になったときほど、辛いと思うことはない。年齢上、自分の方が人生経験も社会経験も積んでいるはずなのに、「お言葉ですが、先輩」と言い返されてしまった時のあのソワソワ感。言葉の端々に「あっ、この新人、裏で自分のことめっちゃ見下してるな?」と気づいてしまったけど、指導しないといけないあのピエロ感。「いつまでもバリバリ現役で働く!」そんな思いとはうらはらに、いつか僕たちは、フロアの階段の行き来で息が切れ、「え〜と、あの人」とこそあどでしか人を思い出せなくなってしまい、いつか指導していたはずの新人にも追い抜かされ、いたたまれずにドトールで昼寝をするおじさんになってしまうのだ。

仏教では四苦の二つ目に「老苦」を挙げている。つまり、

ブッダ「人はどうあがいても老いていくからね」

ということだ。人間は誰もが必ず年齢とともに、体力的にも精神的にも衰退していく。どれだけ筋トレをしようが、DHAを飲もうが、枕を低反発にしようが、必ず自由はきかなくなってくるのである。

「定年がなくなる」「老後に2千万円用意しろ」「まだ確定拠出年金やってないの?」なんて言われている現代で、サラリーマンの労働は先も見えなきゃ、底も尽きない。もちろん僧侶だって、覚えていたはずのお経が暗唱できなくなってくるし、立ったり座ったりの礼拝はぎっくり腰を呼んでしまう。そんな残酷にも止まることを知らない時の流れが「老苦」だ。なにこれ、悲しくなってきた。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

稲田ズイキ

いなだ・ずいき●僧侶。1992年京都の月仲山称名寺生まれで現・副住職。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる「煩悩クリエイター」として活動中。コラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画しています。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。Twitter @andymizuki
過去の執筆・出演記事はこちら

竹内佐千子

たけうち・さちこ●漫画家。おっかけ対象が男子で恋愛対象が女子のレズビアン。
自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子、などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描いている。
赤ちゃん本部長』(講談社)、『生きるために必要だから、イケメンに会いに行った。』(ぶんか社)など。
ホームページhttp://takeuchisachiko.jp/
Twitter @takeuchisachiko

週間ランキング 今読まれているホットな記事