よみタイ

何が何でも予約を取りたい、心もお腹も大満足のお鮨屋さん〜鮨はしもと〜

信じられないくらいとろんとして味わい深い鮪はもはや芸術品です
信じられないくらいとろんとして味わい深い鮪はもはや芸術品です

橋本さんは「小手返し」で握る。
タネに山葵、そして酢飯をのせてギュ、ひっくり返してギュ、180度回してギュ。どのくらいの力加減かというと実はほとんど入れていないらしいです。
お米を右手の中指と薬指と小指で器用に転がしながら俵形にする。
硬めに炊いてあるので“ふわふわ”くらいがちょうどいいそう。
そしてタネで纏うように握る。

たった3手でどうしてこんなにおいしさに違いがでるのだろう。
食材に対する目利き、握るまでの仕込み、握り方、いろいろあるはず。
でも結局はお鮨にどれだけ真摯に向き合っているかだと思うのです。
やはりお鮨は人となりを表すってことですね。

みんなが笑顔になる。おいしくて楽しくて最高のお店です!
みんなが笑顔になる。おいしくて楽しくて最高のお店です!

橋本さんのご実家は福島でお鮨屋さんを営んでいます。
だから料理人になることは子供の頃からわかっていて、最終的には高校で進路を決めるときに専門学校ではなくお鮨屋さんでの修業の道を選んだだけ。最初に勤めたのが明治20年創業の「日本橋蠣殻町 都寿司」。4代目の山縣正さんからは鮨職人として、人間としての在り方を、「日本橋橘町 都寿司(現在は場所を変えて、日本橋蠣殻町 すぎた)」の杉田孝明さんからは鮨の技術を教わりました。この2人によって橋本さんに鮨の心と技術が備わったと言えるでしょう。

穴子の次は玉子でコースが終了。だから穴子が出るとちょっぴり悲しくなります
穴子の次は玉子でコースが終了。だから穴子が出るとちょっぴり悲しくなります

丁寧な仕事振りは修業先の親方譲り。

穴子なんて骨あったんですか?ってくらい完璧に外されている。
そして何より仕込みのセンスが抜群なのです。

「魚を見ておいしくなればいいなぁと、手を加えることで魚のレベルを上げてお鮨にしてあげる、というイメージですかね」とおっしゃる。
例えば良く登場する蒸し鮑。ただ蒸すだけじゃなく前に作った時の蒸し汁を加え、常に橋本さんの味を守っているし、蒸すのも強火から弱火へと2段階と、ひと手間を惜しまない。鮮度が良いから締めたり寝かす必要がなかったとしても温度を調節するなど必ず手をかけるそうです。

それらのタネは赤酢と米酢がキリッと効いた酢飯に本当にぴったり合うのですよ。

この手から生まれるお鮨に喜びもひとしお
この手から生まれるお鮨に喜びもひとしお

正統派の江戸前であるが青柳をオリーブオイルで炒めたり、鰹には新玉ねぎとうるいを刻んでドレッシング風のたれをかけたりと創意工夫したものも魅力。
「江戸前だからこうしなければということは考えていません。こだわりがないのがこだわりってことだと思います。根底にあるのはお客さまに喜んでもらえることです」と話す橋本さんの口調が優しくてやわらかい。

ここに伺いたくなるのはお鮨がおいしいだけじゃありません。
先にも書きましたが、本当にサービスが気持ちいいのです。

玄関周りから店内の至るところまで清掃が行き届いている。橋本さんはじめスタッフ全員の言葉使いがキレイでいつも笑顔。お客さまへの返しもユーモアがあり楽しい。動きがテキパキして無駄がない。初めてでも名前を呼んでもらえたりしてアウエー感がない。器が素晴らしい。私が好きな酒器を必ず出してくれる(こっそり持ち帰ろうとチャンスを狙っているのだが、いつも上手に片付けられる)。
キリがないのでここら辺で止めます。

独立して2年経った頃には、もう予約困難店になりました。
今年で丸5年、ますます磨きがかかり、とどまるところを知らない橋本さんのお鮨、叶うものなら毎月食べたいが、無理ですよね。
ならば神さま、せめて春夏秋冬で行けますように。

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高橋綾子

たかはし・あやこ●フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレス時代から培った〝食″へのこだわりは、舌の肥えた業界人も頼りにするレベルの高さ。年間1000を超えるという外食の日々が築き上げたおいしいもの好きが嵩じて、ついに2018年2月に東京・下北沢にてレストラン「üchï(うち)」をオープン。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
Facebook→https://www.facebook.com/ayako.takahashi.1671

uchi→http://uchi.tokyo/

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