2018.10.25
第2回 徹底したお客さまファーストのイタリアン 〜ラ・ブリアンツァ〜
麻布十番でビブグルマンを獲り続けた「ラ・ブリアンツァ」。オーナーシェフである“おっくん”こと奥野義幸さんが、ここ六本木ヒルズに移ってから、あっという間に超人気店となってしまった。そりゃ、そうなんですよ。だって、料理がおいしいのはもちろんのこと、ここは徹底した〝お客さまファースト″ですから。
私のラ・ブリアンツァ歴はそう長くはなく、まだ5~6年でしょうか。とあるゴハン会で、おっくんにお会いしたのがきっかけでした。彼のお店に行ってみようという気になったのは、おっくんと話して「おいしい料理を作るだろうな」という直感があったからだと思います。私、おいしいものを察知する嗅覚はものすごく長けているのです。
予約の電話をすると、まずはじめに聞かれたのが「どんな会ですか?」でした。
実はその会は、1)接待ゴハン 2)お支払いが先方なので予算感がつかめない 3)絶対に失敗してはならない、という少々ハードルが高い条件下に。実際、初めてのお店を接待ゴハンに使うのは基本NGだと思います。でもね、予約の段階で、まずシチュエーションを聞かれて、この人信頼できる! と思ったわけですよ。だって状況を理解してくれていれば間違いはないはずですから。
当日は、ラ・ブリアンツァの名を一躍有名にしたスペシャリテ「トリュフのオーブン焼き ピエモンテ風」を含むコース料理と、つかず離れずのパーフェクトなサービスで接待は大成功。会計時も先方の〝納得の頷き″を見ました。食の重鎮の方々がなぜ、おっくんの店に足を運ぶのかわかりましたね。
さて、そんなおっくんの料理はというと…、ディナーコースは前菜、パスタ、メイン、デザートで3990円という、この値段で本当に良いのですか?的なもの、メニューの中からプリフィックスで選べる6000円のもの、店がおすすめする全8品からなる6800円はいちばん人気、食べる人のお腹しだいで品数が決まるシェフズスペシャル1万円の4種類。もちろんアラカルトもあります。
大食漢の私は当然シェフズスペシャルですが、あまりお腹が空いていなかった時は品数を少なくする代わりに、すごい食材で作ってもらったりします。
この「かんぱちのカルパッチョ 柚子の香り」は、おっくん手作りの鮎の魚醤(ニョクマム)が効いたさっぱりテイストの前菜。皮目を炙った、かんぱちは脂ものっているので、厚切りにすることで、食感とうまみが一気に押し寄せてくる。そこに柚子やらレモン味の塩やら、オリーブオイルやら、鮎の香りやらが追い打ちをかけるように喉と鼻腔を刺激してくるわけですよ。
香味野菜も含めると、結構な数の味が絡んで複雑なはずなのに、お腹に入ると「ちょっとエスニック? 柑橘でさっぱりだね。かんぱちの弾力がすごい。うん、おいし〜」って感想になる。
おっくんの料理っていろいろ手が込んでいるのに、なぜか調和が取れて、最後は食材の味が際立ってシンプルに感じるところがすごい。
超絶おいしかった「しいたけのパスタ」。香草とオイルと一緒に1日コンフィにした椎茸をミキサーで細かくしただけ、とおっくんは言うけど、まったく信じられません! 味付けはコンフィした椎茸から出る水分だけ!? だとしたらどれだけ上質な椎茸なの?
でもきっと普通の椎茸なのです。普通の食材を限界までおいしくする、そこがすごい。
そして、そこにトリュフを贅沢に削ってかけます。料理に合わせて削り方もいろいろですが、これはすぐに溶けちゃうくらいふわっふわ。パスタは手打ちの「シャラティエッリ」。まるでうどんのように太くてコシもあって、もっちもち。本当にこのお皿山盛りで食べたい。11月くらいまでの期間限定です!
もうひとつパスタ料理をご紹介しましょう。
イタリアンパセリを練りこんだパッパルデッレを仔羊のラグーソースでいただきます。かなりオリーブオイルを使っているのに、なぜか脂っぽさを感じない。脂の少ない仔羊のモモを選び、さらに脂を丁寧に取っているからって言うけど、それで本当にこうなるの? 百聞は一見にしかず! ぜひ召し上がってみて!
麻布十番店は「ヴィア・ブリアンツァ」と名を変え、相変わらずの盛況っぷり。
そして9月25日に誕生した日本橋高島屋S.C.には、日本ではほぼお目にかかれない「Focaccia di recco(フォッカッチャ・ディ・レッコ)」がいただける「フォッカッチェリア ラ ブリアンツァ」をオープンさせた。世界にひとつだけの鹿のオブジェも設えも趣があり、また流行っちゃうでしょ!ってくらい素敵なお店なのです。
15種類ほどあるブッフェスタイルの料理はいずれもレベル高し。しかもお代わり自由。ハッキリ言ってこれだけでも大満足です。が、主役はこちら↓
これが生地と生地の間にストラッキーノチーズをたっぷり入れた「フォッカッチャ・ディ・レッコ」のスタンダード。35cmって結構な大きさだけど、かなり薄い非発酵生地なので、ひとりでもペロッとイケちゃう。ルッコラや生ハムなどのトッピング、ジェノベーゼやハチミツなどのソースを追加すると楽しみが倍増します! トリュフ? もちろんあります、時価だけど。
スタッフにおっくんてどんな人?って聞くと、「すごい人です。お客さまに対してミスしたらとんでもなく怒られますが、自分たちのミスは何でも受け止めてくれます」と答える。うっかりスタッフがおっくんにカルボナーラをドバッとかけてしまった時も怒られなかったそう。お店で働いてくれる人の良いところを伸ばしたいとおっくんは言います。スタッフが生き生きと働いているのが伝わってきます。
快進撃はとどまるところを知らないのですが、そこには18年という大きな実績と、おっくんのマーケティング力とビジネス力が基盤にあるのです。客観的に自分を見ることができるシェフは実はそういないもの。おっくんは世の中から何を望まれているか、自分の立ち位置はどこなのか、よくわかっている。だからお客の気持ちがわかる。そう彼に言うと「こだわりって言葉は好きじゃないです。店はお客さまに満足してもらうことが第一で、自分がこだわることではない。オープンして3年はおいしいものを作って喜ばせよう!なんてエゴイスティックの塊だったけど、たくさんの人から意見をいただくなかで、ある時、これじゃダメだって気が付いた。それからかな、客観視できるようになったし、いろいろなことが上手く回るようになったのは」と。
私:「料理以外で興味があるものは?」
おっくん:「海外で食べ歩くこと」
私:「だから料理以外で!」
おっくん:「ない!」
とキッパリ。
洋服もスポーツも興味ないし、テレビも観ない。多くの意見を聞くと自分がブレる。だから自分に必要だと思った情報だけSNS、ネット、書物、知人から受け取る。根っからの料理バカ、料理にまつわることしか興味がない凄腕の料理人です。
最後の質問。おっくん、料理していて何が楽しい? 「おいしいって言ってもらえること。それとまたお店に来てくれることです」だって。行くよ、行っちゃうよ、行きますとも!