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とんかつ新時代を仕掛けた立役者 〜銀座かつかみ〜 第3回

「綾子さんに聞けば間違いない!」――美味なレストランも気の利いた手土産もとびきりのお取り寄せも、おいしいものには死ぬほどうるさいギョーカイのみんなが頼りにするのが、フードパブリシスト高橋綾子のグルメ手帖。誰もがうなる美味の数々を惜しげもなく公開します!

とんかつ=定食で生きてきた。
キャベツとごはんはおかわり自由で、種類はロースかヒレかメンチから選ぶ。そのイメージを完全に打破、なんと、とんかつをコース仕立てにしちゃったのが、ここ「銀座かつかみ」です。

銀座4丁目交差点からほぼ1ブロック、よっぽどの方向オンチでない限り迷わず行けます。エレベーターで5階まで上がり、扉を開けると目の前に広がるのは一枚板の大きなカウンター。このしつらえ、もはやとんかつ屋さんではない!

カウンターの中ではちょっと強面の料理長、日向準一さんが脇目も振らずにとんかつと向き合っています。日向さんは、おそらく日本で初めてであろう〝とんかつ食べ比べコース″をメニューに出した料理長で、とんかつ好きなら、よくご存知かと。
その日向さんが今度は昼夜ともにコースのみ、さらには希少部位まで〝揚げて″しまうとオープン前から話題をかっさらっておりました。

ランチは2500円と3500円の2種類で、車海老をつけるとそれぞれプラス1000円。ディナーは5000円と7000円に加えて、米沢豚と山形牛を使用した贅沢コース12000円の3種類。少食でなければ「天然アワビのコロッケ」「松茸フライ」「腰塚のコンビーフ」「きた福の蟹コロッケ」から1品を選べて、デザートにかき氷がつく7000円コースをオススメします。

ということで7000円のコースをダイジェストでご紹介しましょう。

まずは私の大好物である「銀杏」から始まります。揚げ物の達人が揚げるのだからアツアツほくほく。これは初っ端からかなりの反則技です。

「トマトの出汁サラダ」という名のトマトを丸ごといただき、出汁を飲み干すお料理。とんでもなくおいしいお出汁にはちょっぴり酸味があり、飲み干すと少しだけミョウガの風味が喉を通る。これがまたさっぱりしてよいのです。トマトはお店に到着してから7~10日ほど“育て”ているのだとか!「そうしないと甘みが出ないんです。色も鮮やかにならないしね」と日向さん。

さて、次からさまざまな部位のとんかつが一切れずつ登場してまいります。どんなことになるのかもうワクワクが止まりません。

揚げたてを半分に切る。さくさくっと良い音を立てた「ヒレ」。
この表面に覆われた美しい透明な肉汁を見てください。写真なんて撮っている場合じゃありませんよ。すぐに食べないと! と、その前に…。

「まず、この汁を吸ってみてください」と促されるままに吸ってみる…。そうは言ってもわずかな量で、味わうまでには至りませんが、とてもきれいな脂だってことはわかります。
「ウチのヒレは飲み物ですから」とおっしゃるとおり、きめ細やかな肉質はしっとりと、本当に噛まずとも口の中で溶けてしまいます。

続いて「ランプ」や「ウチモモ」など本日の赤身のカツが2品、からの「メンチカツ」。
おぉ、バーガーですか。メンチってたまにクドイ味のものにブチ当たることがありますが、これは肉臭なんてさようなら、玉ねぎたっぷり、甘みもあり、ミニサイズも良い! まぁ、とにかく2口で完食、そして味は…〝ニンマリ″おいしい笑顔になりました。

パイナップルジュースで味覚をリセットした後には「生車海老のエビフライ」が!
まず海老の香りに卒倒したところで頭からいっちゃいましょう。え、何、この食感。サクサクなのにソフトシェフクラブのようにやわらかい。「そうだね、生き締めだからね。それに頭は二度揚げしているしね」と日向さん。味噌の甘みも相まって至福の瞬間です。

次は「天然アワビのコロッケ」。肝もちょこんとのっかって、おいしいに違いないってヤツですよ。

揚げあがったコロッケですが、中に入れた肝バターを溶かすために、さらに熱を入れます。早く食べたいっ!

ほ〜ら、待ったかいがありました。中のバターが溶けてクリーミーなソースと化してます。アワビとともにスプーンでいただきます。コロッケというよりグラタンっぽいかな。衣の粗さもちょうど良い。

この後、わさびをのせた「ロース」、トリュフバターをのせた「肩ロース」と続き、ごはんものは「カレー」「カツカレー」「親子丼」「ソースカツ丼」「生姜焼き」「コンビーフ丼」から選ぶ。やばい、このラインナップは迷う、悩む、全部ってわけにはいかないのだろうか。よし、今回はとんかつ屋さんにはなさそうな「コンビーフ丼」にしてみよう。

じゃじゃ〜ん! これが「コンビーフ丼」です。東京食肉市場の仲卸業者である「千駄木腰塚」の自家製コンビーフの卵かけごはん。
では卵を崩しま〜す。

卵とろ〜りのお約束の写真はやっぱりそそられますよね。熱々のごはんの上で溶け出した黒毛和牛の脂をまとった白米に、職人が手で丁寧にほぐしたコンビーフと黄身が絡まれば、旨みがミルフィーユのごとく重なって口の中に入ってくるわけ。こりゃ、たまらんですよ。

そしてデザートにはかき氷。とんかつ屋さんのかき氷だと侮るなかれ!
手作りシロップはフルーツもの、コーヒー系など5~6種類の中から選べます。これはパイナップルね。とにかくシロップがおいしいの! 氷をしっかりと覆った濃厚さはシャーベットに近いかな。さっぱりするし、甘みもあるのでちゃんとデザートを食べた感があって良いわ〜。

コースはこれで終了です。では日向さんに質問タ〜イム。

Q:メニューの構成はどうやって決めたのですか?

日向さん:味の流れ、食感の流れ、量、最後までおいしく感じてもらえるようにひたすら試作と試食を繰り返しました。

Q:揚げ方に秘密はありますか?

日向さん:何千、何万回も揚げているので、この肉の厚さならこの時間ってマニュアルが出来上がっています。そのマニュアル通りにすれば誰でも揚げられますよ。(←って仰るけどそんなわけないでしょと私は思います)

Q:いろいろな部位を出すことにしたのは?

日向さん:一頭買いした時、牛肉と同じようにいろいろな部位を食べてみたくなったんです。切り方を変えることでおいしさに変化があって面白いと思ったからですね。

日向さんは衣の中で肉を蒸しているから〝とんかつは蒸し物″だと言う。揚げる時間が長いと衣に穴が空いて旨み(肉汁)が流れ出てしまう。だから油っぽさとは無縁でたくさん食べられるように、パン粉をできるだけ薄くして揚げ時間を短くしたそうだ。
もうひとつの日向さんの持論は、とんかつ250gを食べた場合、抜群においしいと思うのは最初の2~3切れ。そのうち肉汁が衣にしみてお皿の上でデレっとしてしまう。ならば、1~2切れずつ提供すれば衣がサクサクで肉はジューシーなとんかつが熱々のままおいしく食べられるということ。
つまり、このコースは日向さんの考える、〝とんかつをおいしく食べる最高のスタイル″なのです。

さらにこちらにはソムリエさんがいてシャンパンやワインでペアリングしてくれます。
いよいよとんかつをワインとともに食べる時代が来た!
とんかつが変わる!
さあ、今すぐに“とんかつ新時代”を実感してみようではないか!

●銀座かつかみ ☎03-6263-8720 ※ディナーコースは2名さまより

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高橋綾子

たかはし・あやこ●フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレス時代から培った〝食″へのこだわりは、舌の肥えた業界人も頼りにするレベルの高さ。年間1000を超えるという外食の日々が築き上げたおいしいもの好きが嵩じて、ついに2018年2月に東京・下北沢にてレストラン「üchï(うち)」をオープン。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
Facebook→https://www.facebook.com/ayako.takahashi.1671

uchi→http://uchi.tokyo/

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