2024.12.13
『チ。―地球の運動について―』が100倍面白くなる、宇宙観測の歴史と今
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地動説が主張され始めたのは、いつからなのでしょうか。まず名前が上がるのが16世紀に活躍したコペルニクスです。一度は聞いたことがある名前だと思います。
実際の天体の観測をもとにした、彼の論説が地動説の始まりと言われています。夜空に輝く星全体の動きと、惑星の動きの説明が天動説に比べて明快に説明できる点が注目されました。
観測によって得られた結果から、新たな論説を提唱することは正に偉業です。天文学の研究には「理論」と「観測」の2つのアプローチがあります。数式によって宇宙を説明しようとするものと、天体観測によって宇宙を解き明かすものです。
私は「観測」をメインに研究をしていました。見たことがないような新しい現象を発見する経験もしましたが、これまでの常識に切り込むようなレベルに到達するまで、自分の発見を理論として磨き込むことはできませんでした。当時、科学的なテクノロジーやアプローチが限られていた中で、後世に受け継がれるような説を提唱できたことは不朽の功績です。
ただ、コペルニクスひとりの力によって常識がひっくり返ったわけではありません。その後、あのガリレオ・ガリレイが地動説に関する主張をします。その結果、ガリレオは宗教の教えに反いたことで終身刑を言い渡されることにもなりました。当時は、主流となっていた思想に反する意見を主張すると、壮絶な運命を辿ることになるんですね。
ガリレオの最大の功績の一つは、望遠鏡を使って天体を観測したことです。彼は自分で改良した望遠鏡を使い、月の表面には凹凸があって平らでないこと、木星の周りに4つの衛星が回っていること、そして金星の満ち欠けが地球から見えることなどを発見しました。
そしてこれらの観測結果は、地動説の内容と合致するものだったのです。
特に、木星の衛星の発見は重要でした。それまでの天動説では、すべての天体が地球を中心に回っているとされていましたが、木星の周りを回る衛星の存在は、地球が中心ではないことを示す強力な証拠となりました。 「全ての天体が地球を中心に回る」という考え方とは異なる証拠であり、地動説をサポートするような結果を示すことになったのです。 今でも木星の主要な衛星は「ガリレオ衛星」と呼ばれているので、それだけ彼の観測の力は後世に強い影響を与えたと言えます。
ガリレオの発見からまさに今、2024年まで観測のバトンが繋がれています。
2024年10月、ガリレオ衛星のうちの一つであるエウロパに向けて、NASAが観測機「エウロパクリッパー」を送りました。エウロパは表面が氷で覆われているのですが、その下に海があることが確実視されていて、その海は地球外生命体が存在できる環境ではないかと期待されています。その現地調査にNASAが踏み切りました。
1000年以上もの間天動説を信じていた世界から、地動説が主流になって約400年。地動説を支持するきっかけとなった天体に、直接観測機を送り込めるようになった技術革新の速さにも注目です。
宇宙開発は、ここ数年でその開発スピードが桁違いに上がっています。今、観測で得られた新しい現象のメカニズムを明らかにするには、10年もかからないかもしれません。
加えてガリレオは、この連載でも紹介した太陽フレアの発生場所である太陽表面の黒点の観測もこの望遠鏡で成功させており、そこから黒点観測の歴史も始まっています。真摯に観測に向き合うことは、歴史に名を刻む功績に繋がるのだと言われているような気がします。
天動説から地動説への転換期を描いた「チ。―地球の運動について―」。この歴史的背景を知った上で作品を観たり、漫画を読んだりすると、100倍楽しめると思います。
そして、そこから宇宙にさらに興味を持つ人が増えることを期待したいと思います。
兵庫県神戸市にあるopen air 湊山醸造所の「off world」。フルーティーな香りに、ドライさもありつつ、舌触りがやわらかいヘイジーIPA。個人的に非常に好みの味でした。今回ピックアップした「チ。―地球の運動について―」という作品では、常識にとらわれない考えで真理を追いかけることで、今いる世界とは違う世界の広がりを予感させるものでした。その世界観がこのビールの名前とパッケージがぴったりだと思ってチョイス。オンラインなどで見かけたらぜひ!
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次回連載第28回は12月27日(金)公開予定です。
参考資料
『広大すぎる宇宙の謎を解き明かす 14歳からの宇宙物理学』/武田 紘樹著(税込1540円 KADOKAWA)
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