2024.9.27
ChatGPTだけじゃない! AIが切り開く宇宙の未来
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太陽フレアの未来予測は、太陽フレアという現象を解明する目的というよりはその発生を予測することに焦点を当てたある種の応用研究です。一方で天文学は、自然現象そのものを観測や計算によって解明しようとするものなので、少し性質が異なります。
天文学の分野でもAIの利用は進んでいて、国立天文台がハワイにもつ世界最高性能のすばる望遠鏡のデータをAIで処理することで、これまで発見されてこなかった40万個の銀河が発見されたという研究も最近発表されました。
しかし、天文学でのAI利用には大きなハードルがあります。
私自身も、自分の研究への導入にチャレンジして、それなりの精度のものを作ることができていたものの、あるハードルを越えられなかった苦い過去があります。
そのハードルとは「AIが導き出した答えが正しいのか?」という立証が難しい、というものです。
研究では、人間の感覚的判断を排除し、全てを統計学的に正しい「客観的数値」を用いています。
これによって、誰が見ても納得できる結果になるわけです。ところがAIは人間の思考をモデルに作られているため、判断基準も人間の感覚的なものに近いものを含みます。だからこそ「本当に正しいのか?」という疑問を抱かざるを得ないんです。
つまり、研究では、人間がおこしがちな感覚的判断を排除していたのに、AIの登場で逆に人間っぽさに立ち返っていくような状況になっていくわけですね。
近年はAIが導き出したロジックを研究によって一部解明できるようにもなり、AIを用いたアプローチも受け入れられ始めていますが、今よりも受け入れにくい時代が実際にありました。
私は現在データサイエンティストとしてAI関連の仕事もしていますが、AIに触れ始めたのは2018年にNASAの研究員としてアメリカに滞在していた時でした。
アメリカの天文学会に参加した時、日本では全く見たことがなかった「天文学×AI」のセッションが大々的に開催されていたことに、衝撃を受けました。
これを見て「これだ!」と思って、勉強をし始め、2019年の帰国後には当時運用に参加していた国際宇宙ステーションの装置のデータ解析に使えるAIを研究室メンバーと作り始めました。
けれど完成したAIを、一緒に研究を行うメンバーの会議に提案したとき、なかなか受け入れられませんでした。
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その理由がまさに「AIが導いた解析結論が正しいかどうか判断出来ない」というものでした。
天文学の研究は、自然を相手にする性質上、誤った解釈に辿り着かないように、全ての判断に具体的かつ数値として有効なデータが必要です。これらをしっかり押さえて立証することで、研究の再現性が上がるのです。そしてその再現性が天文学の研究では大切な要素となります。
宇宙という巨大な存在を解き明かすために、過去の研究の上に新たな研究成果を積み上げていくのが天文学です。
その中に不明瞭な判断基準で導かれた結果が含まれてしまうと、その後積み上がる成果の正確性が揺らいでしまう可能性もあるため、判断基準については厳しく検証していかなければいけないのです。
こういった視点から当時を振り返ると、私たちが提案したAIを用いた新たな研究アプローチは、従来のアプローチに比べて判断基準が明確ではなかったかなと思います。
これまで天文学の発展に寄与してきた研究者の方々を納得させられるような説明ができなかったことが悔やまれます。
当時に比べてAI関連の技術に精通してきているので、今なら研究にAIを導入することに成功できるかも、などと思ったりもします。
ただ確かなのは、その時の悔しさがデータサイエンティストとして仕事をするモチベーションになっているということです。
とはいえ、今は天文学においてもAIが提示する現象や可能性に対してある程度説明が明確になるアプローチも増えてきました。天文学分野においても、AIを活用する時流にのろう、という雰囲気が出てきたのかもしれません。
こういった流れから、これまで人間が見逃してきた面白い研究結果がAIによって発掘される可能性が高まっているとも言えます。加えて、人工衛星のデータ処理をAIが行うことで、これまで扱うことができなかった大量のデータを利用できる技術も開発され始め、その活用方法も増えてきています。
課題も多かったものの、AIの能力の向上によって、天文学・宇宙開発にも更に注目が集まることになるはずです。
神奈川県鎌倉市にある「Yorocco Beer」の「Cultivator」。ピルスナー好きな私には非常にマッチする一杯。フルーツ感のある爽やかさと香りが最高。このブルワリーのフラッグシップ的な位置付けと言われているそうで、今回の内容は私のキャリアのは最も重要な〝フラッグシップ″とも言える「宇宙」と「AI」を組み合わせたテクノロジーについて書いたのでチョイスしました。
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次回連載第23回は10月11日(金)公開予定です。
参考資料
宇宙天気AI予測/RRI 電磁波研究所 宇宙環境研究室
太陽フレア発生予測/NICT 情報通信研究機構 西塚直人 久保勇樹 杉浦孔明 田 光江 石井 守
Solar Flares Forecasting Using Time Series and Extreme Gradient Boosting Ensembles /T.Cinto (1 and 2), A.L.S.Gradvohl (1), G.P.Coelho (1), A.E.A.da Silva (1) ((1) School of Technology-FT,University of Campinas-UNICAMP, Limeira,SP,Brazil,(2)Federal Institute of Education, Science and Technology of Rio Grande do Sul-IFRS,Campus Feliz,RS,Brazil)
市民天文学者とAIの協働で渦巻銀河とリング銀河の大規模検出に成功/すばる望遠鏡 2024年3月13日
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